定年後の老後生活は、趣味や余暇を楽しむ姿を思い浮かべる人も多いでしょう。一方で、十分な資金があっても、再び働くことを選ぶ人がいます。そこには、収入だけではない「社会とのつながり」や「生きがい」への思いがありました。ある男性の事例から、老後の働き方や社会参加について考えます。
「もう一度、働かせてください」〈退職金2,500万円・68歳〉悠々自適の老後を捨て、元部下の会社を訪ねたワケ ※写真はイメージです/PIXTA

収入だけではない、仕事を通じた人とのつながり

加藤さんは驚いたものの、これまでの経験を知っていました。そこで、いきなり正社員として働くのではなく、週3日、営業同行や若手社員への助言を担当してもらうことになりました。

 

小林さんにとっては、現役時代と同じ働き方ではありません。

 

それでも、出社する日には朝から予定があります。社員から相談を受けることもあります。取引先との打ち合わせに同行することもあります。

 

「忙しすぎるのは困ります。でも、誰かから『これについて教えてください』と言われるのは、やっぱりうれしいですね」

 

仕事を始めて数ヵ月。小林さんは、生活そのものが大きく変わったわけではないといいます。退職金2,500万円はそのまま残っており、働かなければ生活できないわけでもありません。それでも、仕事のある日は朝に着替え、電車に乗ります。

 

「毎日が楽しいです。メリハリがあるから、妻との時間も、以前より楽しいです。何よりも、色々なことに興味を持つようになりました」

 

地域の集まりにも顔を出すようになり、以前より人と話す機会も増えています。

 

「加藤さんは昔の部下ですから、最初は変な感じがしました。それでも『助かってます』と言われたときは、本当にうれしかった」

 

一度は仕事を辞めると決めましたが、リタイア生活を続けなければならないわけではありません。

 

「自分ができることを必要としてくれる場所があるなら、まだやってみたい。その気持ちに素直に従ってみただけです」

 

内閣府『令和7年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の生活と意識に関する国際比較調査)』によると、日本の高齢者(60歳以上)の46.1%が「収入を伴う仕事をしたい(続けたい)」と回答しており、欧米諸国と比べても高い就労意欲を示しています。

 

就労希望の理由では「収入がほしいから」(53.8%)が最多ですが、「働くのは体によいから、老化を防ぐから」(21.5%)や「仕事そのものが面白いから、自分の活力になるから」(11.4%)など、健康維持や生きがい、社会参加を求める割合も少なくありません。

 

十分な老後資金があっても、社会参加や生きがいを求めて働くシニアは少なくありません。長年培った知識やスキルを必要とされる場所で活かすことは、セカンドライフに豊かな充実感をもたらす鍵となるでしょう。