老後のために、できるだけお金を残しておきたい――そう考える高齢者は少なくありません。一方で、子どもから見れば「そんなに貯め込んで、何に使うの?」と疑問に感じることもあります。ある母娘の事例から、お金を使わない高齢者の事情と、老後のお金との向き合い方を考えます。
3冊の預金通帳に刻まれた「貯金額」に52歳娘が絶句。〈年金月12万円〉78歳母がひた隠しにしていた秘密に「うっ、うそでしょ?」 ※写真はイメージです/PIXTA

「自分のために使えばいい」と言われても

和子さんが貯金を始めたのは、まだ夫が元気だったころです。夫婦で働いていた時期に少しずつ貯め、夫が亡くなってからも、できるだけ預金を取り崩さないようにしてきました。年金が月12万円になってからも、生活費を抑えました。

 

「何かあったときに、お金がないのが一番困るから」

 

和子さんが繰り返していた言葉です。陽子さんは、母に「そんなに貯めているなら、もう少し自分のために使えばいい」と伝えました。しかし、和子さんは首を横に振ります。

 

「まだ使うときじゃないの」

 

その言葉が気になり、陽子さんは母に何度も尋ねました。

 

そこで初めて、和子さんが長年考えていたことを知ります。もし自分が介護を必要としたとき、もし自宅で暮らせなくなったとき、自分一人で解決できるために、お金を使わずに残してきたといいます。

 

公益財団法人生命保険文化センター『2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査』によると、介護に要した費用(公的介護保険の自己負担含む)は、住宅改造などの一時費用が平均47.2万円、月々の費用が平均9.0万円となっています。

 

また、介護を行った場所が「施設」の場合は月額平均13.8万円と高くなり、介護期間の平均は4年7ヵ月(54.9か月)に及びます。自宅での生活が難しくなり施設へ入所する場合や介護が長期化した際には、数百万円単位の自己負担が発生するため、子どもに金銭的・精神的な負担をかけたくないという思いから、預貯金を取り崩さずに備える高齢者は少なくありません。

 

母にとって、何かあったときに誰かに頼らずに済む安心こそが一番大切なこと――ただ、話を聞くうちに、陽子さんには別の疑問も生まれました。

 

「じゃあ、私に何も言わなかったのはどうして?」

 

和子さんは、少し間を置いて答えました。

 

「私のお金を当てにしてほしくなかった」

 

母の貯金額に驚いた一方で、自分自身も「親が何とかしてくれる」と無意識に考えていなかったか。母のお金を知ったことで、そんなことまで考えるようになったそうです。

 

厚生労働省『2025年 国民生活基礎調査の概況』によると、児童のいる世帯で生活意識を「苦しい」と回答した割合は61.5%にのぼります。さらに同世帯の54.3%が借入金を抱え、平均借入金額は1,226.2万円に達しています。

 

全世帯でも平均所得(575.2万円)以下の割合が61.5%を占めるなど、住宅ローンや教育費を抱える現役世代の家計も厳しいのが実情です。「親が何とかしてくれる」と頼るのが難しい時代だからこそ、親子で早いうちから互いの家計や介護費用の備えについてオープンに話し合っておくことが大切です。

 

 

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