孫の世話を手伝ってもらったり、困ったときにすぐ駆けつけたり――高齢の親と近くに住むことは安心につながります。しかし家族との物理的な距離が、関係性を変えてしまうこともあります。ある家族の決断から、高齢期における家族との適切な距離感について考えていきます。
「お義父さん、やめてください!」 48歳娘婿、愕然…「隣の家を買おうと思う」と言い出した〈年金月18万円・72歳〉の義父 ※写真はイメージです/PIXTA

「近くに住んで助けたい」…親心と子世代の生活

茂さんに悪意はありません。娘夫婦が共働きで忙しいことも知っています。孫の学校行事や急な発熱があれば、近くにいる自分が手助けできる。自分自身に何かあったときも、娘のそばなら安心です。

 

一方、大輔さんには気になることがありました。これまでも茂さんは、月に何度か突然訪ねてくることがありました。孫の送り迎えを申し出てくれることもあります。助かる場面がある一方で、夫婦だけで過ごしたい休日に訪ねてこられ、断りづらかったこともありました。

 

「お義父さんが嫌なわけではありません。でも、隣に住むとなると――今までとは違います」

 

恵さんも、父親の気持ちは分かっています。

 

「お父さんは、本当に私たちのことを心配してくれているんだと思う。だけど……」

 

だからこそ、断ることにも抵抗があったのです。そこで翌週、大輔さんは茂さんと直接話しました。

 

「お義父さん、隣に引っ越してくるというのはやめてください」

 

茂さんは驚きました。

 

「どうしてだ? 近くにいれば、俺も手伝える」

「近くにいてくれるのはすごく嬉しいです。ただ、隣というのは、お互い、気を遣うと思いませんか?」

 

自分では、娘夫婦を助けるための選択だと思っていました。しかし、隣同士という距離感が適切か、お互いに心地よいのか、そこまで気が回らなかったといいます。

 

結局、茂さんは隣の住宅の購入を見送り、娘夫婦の家から車で10分ほどの場所にある住宅を探すことになります。

 

「想像してみると、近すぎるのも面倒だと思いました。少し舞い上がっていましたね、私」

 

国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査』(2022年)によると、親と同居していない有配偶女性において、別居する実親との居住距離が「15分未満」である割合は父親で20.4%、母親で21.7%を占めます。さらに「30分未満」の範囲で見ると全体の40%台に達しており、親子が互いに独立した生活を保ちながら行き来できる「近居」が広く支持されていることが分かります。

 

親との近居は育児や日常の手助けを得やすい一方、隣同士や敷地内同居のように距離が近すぎると、プライバシーの確保や気遣いから負担を生むこともあります。今回のケースのように「車で10分程度」という適度な距離を保つことが、親子関係を良好に維持する現実的な選択といえそうです。