孫の世話を手伝ってもらったり、困ったときにすぐ駆けつけたり――高齢の親と近くに住むことは安心につながります。しかし家族との物理的な距離が、関係性を変えてしまうこともあります。ある家族の決断から、高齢期における家族との適切な距離感について考えていきます。
「お義父さん、やめてください!」 48歳娘婿、愕然…「隣の家を買おうと思う」と言い出した〈年金月18万円・72歳〉の義父 ※写真はイメージです/PIXTA

娘夫婦も驚愕した「72歳義父の決断」

妻に先立たれてから一人暮らしを続けているという加藤茂さん(72歳・仮名)。月18万円程度の年金を受け取り、その範囲で生活を送っていました。

 

一方、娘の恵さん(45歳・仮名)は、48歳の夫・大輔さん(仮名)と小学生の子ども2人の4人暮らし。ある日、茂さんが恵さんの家を訪ねると、仕事から帰ったばかりの娘は夕食の準備に追われていました。夫の大輔さんは残業で帰宅が遅くなる予定でした。

 

茂さんは孫たちと夕食を済ませ、食器を片付けるところまで手伝いました。帰り際、恵さんが「お父さんが近くにいてくれたら、こういうとき助かるんだけどね」と口にしました。

 

恵さんにとっては、何気ないひ言でした。しかし、茂さんは違いました。

 

「共働きは大変そうだな。近くにいたほうが楽なのか――」

 

それから茂さんは、娘夫婦の暮らしを以前より気にするようになります。数日後、恵さんから「仕事が長引いて、子どもの迎えに間に合わない」と連絡が入りました。茂さんが代わりに迎えに行くと、恵さんは何度も「助かった」と言いました。

 

茂さんは、自分にもまだ家族の役に立てることがあると思うようになりました。

 

内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、65歳以上人口に占める一人暮らし(単独世帯)の割合は増加の一途をたどり、令和2(2020)年には男性15.0%、女性22.1%となり、令和32(2050)年には男性26.1%、女性29.3%に達すると見込まれています。

 

このように高齢期の単身世帯が増加する中、住まいや暮らし方を考える際には、単なる住居の所有(65歳以上の持家率は83.0%)にとどまらず、家族や地域との「つながり」や「心地よい距離感」の維持が課題となっています。

 

そんなある日、娘夫婦の家の隣にある中古住宅が売りに出されます。茂さんは、娘の家を訪ねた帰りに「売家」の看板を見つけました。帰宅後、物件情報を調べます。価格を見ると、現在の自宅を売却すれば、ローンを組まずに購入できそうです。

 

「ここなら、何かあったときにすぐ行ける」

 

茂さんは不動産会社に問い合わせ、物件の内見を申し込みました。さらに自宅を売った場合の資金についても確認し、購入に向けて話を進めていました。

 

そのことを知って驚いた恵さん。その話はすぐに夫・大輔さんの耳にも入ります。

 

「お義父さん、隣の家を買うんですか?」

「そうだ。恵たちの近くなら安心だろう」