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結婚前に告白…「借金があるってこと?」
大学卒業後、Aさんはゲーム・アプリの制作会社に就職し、経理の仕事に就いた。返済額は月2万円。社会人になりたてのころは負担を感じたが、数年経つと生活に組み込まれ、意識することは減っていった。
30歳のとき、交際していた男性と結婚の話が持ち上がる。Aさんは奨学金のことを正直に打ち明けた。
「『それって、借金があるってことだよね?』といわれました。驚いたような顔をされて。悪気があったわけじゃないのはわかっています。ただ、あ、そういうふうに見えるんだな、と」
相手は奨学金を借りたことがなく、周囲にも借りている人がいない環境で育っていた。制度としての奨学金と、債務としての奨学金。その2つが同じものだと理解してもらうまでに、いくらか説明が必要だった。結婚後、返済は家計の固定費として夫婦で共有するようになった。
育休中の「猶予」で遠のく完済の日
31歳で第一子を出産した。産休・育休で収入が大きく減ったAさんは、返還期限猶予制度を申請し、返済を一時的に止めた。
「制度があること自体は、本当にありがたかったです。あのとき返済を続けていたら、家計はかなり苦しかったので」
復職後、返済を再開した。残りの返済額は約300万円。ただし猶予を使った期間の分、完済予定は後ろにずれている。現在のペースでいくと、完済は40代半ばになる見込みだ。
そしていま、Aさんは2人目を考えている。
「2人目が欲しい気持ちはあります。でも、また産休と育休に入れば、たぶんまた猶予制度を使うことになる。そうなれば完済はもっと先になる。子どもを産むたびに、返し終わる日が遠ざかっていくような感覚があって」
夫が転職時に受け取った退職金の一部で、一括返済することも話し合ってはいる。しかし、子どもの教育費や住まいのことを考えると、手元の資金を一度に使う決断はしきれずにいる。
「返済を止められる制度があるのは助かりました。でも、止めるという選択をするたびに、自分の40代がどんどん埋まっていく。それが正直、しんどいです」
返還期限猶予制度の課題
Aさんの言葉は、返還期限猶予制度の意味と、その限界を同時に示している。
返還期限猶予制度は、収入が減少した場合などに一定期間、返済を先送りできる制度だ。Aさんのように、産休・育休によって家計への負担が大きくなる場面で利用できることは、返済者にとって重要な支えになる。
一方で、猶予は返済そのものを免除するものではない。利用した期間の分だけ返済期間は延びるため、結果として完済の時期も後ろにずれる。つまり、出産・育児によって一時的に返済を止める必要が生じれば、その分だけ返済の終わりも遠くなるのだ。
これは制度そのものが不要という話ではない。必要な人が安心して利用できる猶予制度を維持しながら、ライフイベントによって返済期間が長期化する人への支援も考える必要があるということだ。
奨学金の返済計画は、卒業後に継続して収入を得ながら返済していくことを基本としている。一方で、実際の人生には、妊娠・出産、育児、介護、転職など、収入や働き方が変わる局面がある。その現実と、返済制度とのあいだには、まだ埋めきれていないギャップがあるといわざるを得ない。