(※写真はイメージです/PIXTA)
「このままではダメだ…」母が悟った瞬間
その日の夜、ケイコさんは夫に、「この子、このままで大丈夫なのかな」と話しました。夫は「仕事はちゃんとやっているんだろう?」と言いましたが、ケイコさんが気にしていたのは仕事ではありません。
「結婚するかどうかはわかりません。でも、このまま結婚したら、私が今やっていることを一緒に住む人にやらせるだけなんじゃないかと思ったんです。すでにダメ男かもしれないですが、このままいくとダメ夫になる」
仕事から帰れば食事がある。着た服は誰かが洗う。部屋はいつの間にかきれいになる。そして、それをしてくれる人に対して、「自分より仕事が軽いから」「時間があるから」と考える。
「それでは、一緒に暮らす相手を自分のケア係にしてしまいますよね。育てた私にも責任があると思いました」
「3ヵ月以内に出ていって」息子への最後通告
数日後、ケイコさんはコウタさんに、「3ヵ月以内にこの家を出て、一人暮らしをしてください」と告げました。
コウタさんは、「なんで急に?」「別に迷惑かけてないじゃん」と反発しました。
ケイコさんは、「食事を作る人、洗濯する人、掃除する人がいる。食費も電気代も水道代も誰かが払っている。それを全部“何もしてもらっていない”と思っていることが問題なの」と伝えました。
するとコウタさんは、「じゃあ家に金入れればいいんでしょ?」と言いました。
しかし、ケイコさんは首を縦には振りませんでした。
「もうお金だけの問題ではないと思ったんです」
さらにコウタさんは、「友達だって普通に実家に住んでる」「一人暮らししたら金もったいないじゃん」と不満を口にしました。
ケイコさんが、「その“もったいない分”を今まで誰が負担していたの?」と聞くと、「親なんだから、それくらい普通じゃない?」と返ってきたそうです。
総務省「家計調査」によると、2025年の単身世帯の消費支出は1世帯当たり月平均17万3,042円でした。単身世帯全体の平均であり、24歳の一人暮らしにそのまま当てはまる数字ではありませんが、食費や住居費、水道光熱費など、生活には相応のお金がかかることがわかります。実家暮らしで本人が負担していなくても、その費用そのものが消えているわけではありません。
「親なんだから当たり前だろ」 ──。その言葉でケイコさんの決意は固まりました。
実家に帰ってこなくなった息子
その後、コウタさんは職場から通いやすい都内に部屋を借りました。敷金や引っ越し代、家具・家電も原則として本人負担です。しかし、家を出るまで態度が変わることはありませんでした。
「一人暮らしさせられるせいで貯金できない」「せっかく実家から通えるのに」と不満を漏らし、引っ越し当日には、「これで満足?」と捨てゼリフをはく始末。さらに一人暮らしを始めてから、親子の距離は広がりました。
コウタさんは必要があれば父親には連絡するものの、ケイコさんに自分から連絡することはほとんどありません。休日に実家へ帰ってくることもなくなりました。
「寂しくないと言ったら嘘になります。でも、嫌われたくないから何でもやってあげるのが親の役目ではないと思ったんです」
「母親がやって当然」を次に持ち込まないために
実家暮らしそのものが問題なのではありません。問題は、自分の生活を支えているお金や労力を「誰かが負担して当然」と考えてしまうことです。
総務省「令和3年社会生活基本調査」によると、1日当たりの家事関連時間は男性51分、女性3時間24分。男女差は2時間33分あります。
コウタさん自身は「女性が家事をするべきだ」と言ったわけではありません。それでも、「自分は毎日会社で働いている」「母親は週2日のパートだから時間がある」と考え、食事や洗濯を母親に任せていました。ケイコさんが危機感を抱いたのは、その感覚を将来のパートナーとの生活にも持ち込むのではないかと感じたからです。
一人暮らしをすれば、すぐに考え方が変わるわけではありません。それでも、自分で食事を用意し、洗濯をし、生活費を払うことは、暮らしが誰かの時間や労力によって成り立っていると知るきっかけになります。
就職し、給料を得ることだけが自立ではありません。息子との距離ができた今も、ケイコさんは、そこまで教えることが「最後の親の役目だった」と考えています。
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