内閣府の「令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査」によると、65歳以上の30.6%が「子(子の配偶者を含む)」と同居しています。また、「同居している子のみ」がいる人は13.4%、「同居・別居の子がともにいる」人は24.2%でした。親と成人した子どもが一緒に暮らす事情や、家計・家事の分担は家庭によってさまざまです。しかし、親が高齢になれば、それまで成り立っていた家族の関係が変わることもあります。埼玉県に暮らすヨシコさん(72歳・仮名)は今年のシルバーウィーク、毎年のように顔を見せていた次男一家が帰省しなかったことに寂しさを感じていました。その原因のひとつは、同居する48歳の長男でした。
「なんで、おじちゃんの分も払うの?」小学生の孫がポツリ…48歳長男と暮らす〈年金月25万円〉70代夫婦。次男一家がシルバーウィークの帰省をやめた「本当の事情」 ※写真はイメージです/PIXTA

「息子たちに、これを当たり前だと思ってほしくない」

実家では、ヨシコさんがダイスケさんの食事を用意し、洗濯や掃除をしています。そして帰省するたび、その姿を2人の孫も目にします。

 

「お義兄さんの生き方に口を出したいわけじゃない。でも、息子たちに『大人になっても、お母さんにご飯を作ってもらって、洗濯してもらえばいい』とは思ってほしくない」

 

マキさんはユウジさんにそう話しました。マキさん夫婦は共働きです。息子たちにも、自分でできることは自分でするよう教えてきました。

 

将来、息子たちが結婚するかどうかはわかりません。それでも、自分の生活を自分で成り立たせられる大人になってほしい。そして、もし誰かと家庭を築くなら、家事や育児を「相手に協力する」「手伝ってあげる」と考えるのではなく、自分自身も家庭をつくる当事者だという意識を持ってほしい。それが夫婦の考えでした。

 

「だから、お義兄さんの今の生活を『この家では普通のこと』として見せ続けたくない」

 

ユウジさん自身も、兄の生活について思うところがあったといいます。そしてヨシコさんにこう伝えました。

 

「母さんが兄貴の世話をするのは自由だと思う。でも、俺たちや子どもたちまで、それを当たり前だと思わなくちゃいけないわけじゃないよ」

夫にも「何でもやってあげる」生活だった

息子の話を聞きながら、ヨシコさんには思い当たることがありました。実は、ダイスケさんだけではありません。ヨシコさんは長年、夫の身の回りのこともほとんどやってきました。

 

「私がやったほうが早いと思っていたんですよね。夫もそれが当たり前になっていたと思います」

 

内閣府の同調査では、「自分で食事の用意をしている」と回答した65歳以上は、女性86.4%に対して男性43.4%。大きな男女差があります。しかし最近、夫には歩く速度が以前より遅くなったり、外出を面倒がったりするなど、体力の衰えを感じさせる変化が出ていました。

 

ヨシコさんも「何でもやってあげることが、本当に夫のためなのだろうか」と薄々考えるようになっていたといいます。

 

加齢によって心身の活力が低下し、健康な状態と要介護状態の中間にある状態は「フレイル」と呼ばれます。高齢になれば、これまで家族の世話をしてきた側が、やがて支援を必要とする側に回ることもあります。

 

「夫にも長男にも、私がやってあげるのが家族だと思っていた。でも、できることまで全部やってしまうのは違うのかもしれないと思うようになりました」

「私たちがいなくなったら、この子はどうするんだろう」

そして今回、ヨシコさんが初めて現実的に考えたことがあります。自分たち夫婦がいなくなったあとのダイスケさんの生活です。現在は両親の持ち家に住み、家に入れるお金は月3万円。食事や洗濯などの家事の多くは母親が担っています。しかし、72歳のヨシコさんと74歳の夫が、48歳の息子をいつまでも支え続けられるわけではありません。

 

「順番でいえば、私たちのほうが先にいなくなります。そのとき、この子はどうするんだろうって。今までちゃんと考えてこなかったんですよね」

 

親が亡くなったあとも家に住み続けるのであれば、食費や光熱費だけではなく、固定資産税や住宅の修繕費なども自分で負担していかなければなりません。

 

親が元気な現在、「月3万円で暮らせている」ということと、親の支えがなくなったあとも自分の収入で生活を維持できることは別の話です。また、ヨシコさん夫婦自身が先に介護を必要とする可能性もあります。これまで世話をしてきた親が支えられる側になったとき、家族の役割は大きく変わります。

次男一家が帰ってこなかった連休に考えたこと

結局、今年のシルバーウィークに次男一家がヨシコさんの家を訪れることはありませんでした。これまでなら孫たちの声でにぎやかだった連休を、今年は夫とダイスケさんとの3人で過ごしました。

 

「寂しかったですよ。でも、お嫁さんを責める気にはなれませんでした。孫たちが見ているということまで、私は考えていなかったんです」

 

連休が終わったあと、ヨシコさんはダイスケさんに、家に入れるお金や家事の分担について話をしたそうです。また夫についても、できることまで先回りしてやらず、自分で動いてもらうことを意識するようになりました。

 

親が成人した子どもを支えることも、夫婦がお互いを支えることも、それ自体が問題なのではありません。しかし、「支えること」と「自分でできることまで代わりにやること」は同じではないでしょう。親子で暮らす時間にも、いつか終わりが来ます。親がいなくなったあとも自分の生活を成り立たせていけるのか。そして次の世代に、家庭とは「誰かにやってもらう場所」ではなく、それぞれが当事者としてつくるものだと伝えていけるのか。

 

次男一家が帰ってこなかった今年のシルバーウィークは、ヨシコさんにとって、長年続いてきた家族の「当たり前」を見直すきっかけになったようです。