住宅ローンの変動金利上昇への焦りから、繰上げ返済を急ぐ人が増えています。しかし、住宅ローンの返済は早く終わらせればいいという単純なものでもありません。見込み違いの返済計画は思わぬリスクを招くことも……。本記事では、繰上げ返済を行ったAさん(53歳)の事例から、金利上昇期に確保すべき「適切な資金戦略」についてFP1級の川淵ゆかり氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
住宅ローンの繰上げ返済、しなければよかった…金利上昇の恐怖に耐えかねた〈月収60万円・53歳会社員〉、「焦り返済」で直面する絶望の5年後【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

200万円の繰上げ返済をしていなかったら…125%ルールに注意

Aさんは「繰上げ返済、しなければよかったなぁ。もっと早くシミュレーションしてもらえばよかった」と後悔していましたが、筆者は「あながち失敗でもありませんよ」と答えました。繰上げ返済は確実に元本を減らしますから、一定の効果はあります。それに、繰上げ返済をしていなかったら、返済額はもっと上がっていたからです。

 

200万円の繰上げ返済をしなかった場合、上記のように政策金利が9回上昇したケースでシミュレーションすると、Aさんの2029年4月の返済額は、13万3,135円(+2万6,627円)まで上昇しますが、これは、いまの返済額の1.25倍であり、125%ルールにひっかかることになります。そのため、元金の返済がさらに先送りされ、さらに5年後の2034年4月には返済額は、13万7,767円まで上昇してしまいます。

 

Aさんはすでに35年ローンのうち12年間(約3分の1)の期間の返済を終えているのですが、そんな人でも(繰上げ返済しなければ)125%ルールにひっかかるほど、金利上昇の影響が出てくる可能性があるのです。

 

ですが、繰上げ返済はゆとりを持って行う必要があります。金利上昇期の繰上げ返済は“万能薬”ではありません。返済額を抑える効果よりも、手元資金の枯渇リスクのほうが大きくなるケースもあります。

 

物価高や教育費の上昇もありますが、教育費・親の介護・収入ダウンなど、支出の山が続きます。住宅ローンの繰上げ返済を行う場合でも、最低でも生活防衛資金として半年〜1年分の生活費は確保しておきたいところです。

 

繰上げ返済の効果を確認するためにもまずはシミュレーションを必ず行ってください。

今後、金利は下がるのか?

変動金利型ローンについては「将来、金利がまた下がるかもしれない」という意見もありますが、筆者は、

 

・いままでの超低金利が異常

・長期金利との関係性

 

といった理由から金利が下がることはかなり難しいと考えます。

 

財政不安などの原因から長期金利は上昇していますが、長期金利の上昇は円安を招くため、やがては政策金利の上昇に繋がっていくでしょう。国債の利払いが増え、少子高齢化が進むなか、年々財政問題は大きくなっていきますので、長期金利は上昇傾向です。長期金利の上昇は決して変動金利と無関係ではありません。変動金利型ローンを利用している人は長期金利にも注視していくようにしましょう。

 

中立金利は「2%固定」ではない

中立金利は「2%前後」といわれますが、これは固定値ではありません。中立金利は景気や物価、財政状況によって変動する推計値であり、日銀の推計でも1.1〜2.5%と幅があります。

 

もし中立金利が上昇すれば、政策金利もさらに引き上げられ、変動金利型ローンの返済額はいまの試算以上に増える可能性も。だからこそ、金利上昇期は「中立金利の変動」も視野に入れて、ローンのシミュレーションを行う必要があるのです。財政問題や物価高の影響で、中立金利も今後は上昇することも十分あり得るのです。

 

ですから、2028年以降も金利が上昇していく可能性はあり、その場合、さらに2029年春以降の返済額アップは大きくなってしまうのです。5年ルールの5年は、5年後の返済額アップのためにマネープランを見直すための期間です。金利が上がりはじめてからすでに2年半が経過してしまいましたが、まずは住宅ローンのシミュレーションをしっかり行って、残りの2年半でマネープランを見直すようにしてください。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

 

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