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定年後の夢を独断で強行した60歳夫の誤算
東京在住の高橋浩(60歳・仮名)さん。首都圏のメーカーを60歳で定年退職し、退職金2,400万円と、これまでの蓄えを合わせて5,000万円の老後資金を保有していました。
浩さんには長年温めていた夢がありました。それは、都市部の騒々しさから離れ、自然豊かな地方で暮らすこと。
「妻とも老後はのんびりと静かなところで暮らしたい、と話していました」
浩さんは妻の由美子(58歳・仮名)さんに一切相談することなく、地方都市の郊外にある築50年の古民家を500万円で購入する売買契約を結びます。
由美子さんへのちょっとしたサプライズ――という思いだったそうです。
契約を完了させた浩さんは、満足気な表情で契約書を自宅に持ち帰りました。そこで「これからは豊かな自然の中で二人で暮らそう」と由美子さんに告げます。寝耳に水だった由美子さんは言葉を失い、怒りを爆発させました。
「勝手に判を押すなんて、正気!?」
確かに、夫婦の会話のなかで将来について語ったことはありました。しかし由美子さんにとって、今の暮らしは長年築いた交友関係のうえで成り立っているもの。孫の成長を近くで見守る楽しみもありました。縁もゆかりもない見知らぬ土地へ移住することなど、受け入れられるはずもありませんでした。
夫婦の議論は激しく対立。浩さんは自分の夢を理解しない妻に失望し、由美子さんは相談なしに巨額の資金を動かした夫への不信感を募らせます。結局、双方の主張は平行線をたどりました。浩さんは由美子さんの反対を押し切り、単身で古民家へ引っ越し、別居生活を開始したのです。
内閣府『令和5年度高齢社会対策総合調査』によると、老後の住み替え意向が「ない」と回答した人は約7割(69.6%)に達しており、その最大の理由は「現在住んでいるところに満足しているから(67.1%)」となっています。
また、住み替えの動機には明確な男女差が存在します。男性は「自然豊かな環境で暮らしたい(15.0%)」や「趣味の充実(8.3%)」といった環境面や個人的願望を理由に挙げる割合が女性より高いのに対し、女性は「健康・体力面の不安(27.0%)」や買い物の利便性など、現実的な暮らしやすさや将来の不安解消を重視する傾向が顕著です。
さらに、単身以外の世帯では「家族の同意が得られないこと(11.2%)」が住み替えを実現できない大きな要因となっています。こうした配偶者との意識の違いを無視した独断の住み替えは、家庭崩壊を招く大きなリスクを孕んでいるのです。