特殊詐欺から親の財産を守ったはずが、なぜか親子関係に深刻な亀裂が入ってしまう――良かれと思った息子の行動が、なぜ高齢親の強い反発を招いてしまったのでしょうか。ある家族の事例から考えていきます。
危機一髪でした…「300万円詐欺」を未然に防いだ52歳長男、〈年金月13万円〉82歳母から実家を締め出された理由 ※写真はイメージです/PIXTA

実家を訪ねると、玄関の鍵が開かず…

数日後、英樹さんは実家を訪ねました。ところが、以前の鍵では玄関が開きません。母に連絡すると、こう言われました

 

「鍵を替えたの」

「もう勝手に来ないで」

 

英樹さんは驚きました。300万円を失わずに済んだことで、母も安心していると思っていたからです。

 

「母さんのお金を取ろうとしたわけじゃないよ」

「詐欺に遭わないようにしただけだよ」

 

それでも久美子さんは譲りませんでした。

 

「親心を疑うの?」

 

自分の息子を助けるために銀行まで行った。その自分の行動を、息子から否定されたことが許せないのだと言います。

 

久美子さんにも少々意地になっている部分があったのでしょう。ここで反論すると余計に事態がこじれると判断した英樹さんは、それ以上言い返すことなく、いったん帰路につくことにしました。

 

内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らし(単身世帯)は増加の一途をたどり、2050年には男性の26.1%、女性の29.3%に達すると推計されています。また、同白書の国際比較調査では、同居家族以外に「友人」や「近所の人」を頼れると答えた日本の高齢者は1割強(友人13.7%、近所12.9%)にとどまり、相談相手の少なさが目立ちます。

 

単身化が進むなか、親を思う行動であっても自尊心や心情への配慮を欠くと、かえって家族間の心の断絶を招くことも。金銭的被害を防ぐだけでなく、親の尊厳を守る丁寧な対話と寄り添いが重要です。