定年後の生活において、いつから年金を受け取り始めるかは老後のライフスタイルを大きく左右する決断です。減額リスクを受け入れて早期受給を選ぶ「繰上げ受給」は、健康で動けるうちに家族との時間や自由な生活を優先したい層にとって、重要な選択肢の一つとなります。事例を見ていきましょう。※事例の人物名はすべて仮名です。
「年金、繰り上げといて、よかったな…」年金減額で〈月15万円〉受給する61歳元会社員の男性。病院で告げられたひ言で、過去の決断に確信を持ったワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

年金「繰上げ受給」のメリット/デメリット

公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は原則65歳からの受給ですが、60歳から64歳までのあいだに前倒しで受け取る「繰上げ受給」を選択できます。2022年4月の制度改正以降、減額率は1ヵ月あたり0.4%(最大24%減額)となっており、一度繰上げを選ぶと減額された受給額が一生涯続きます。

 

厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、受給権者における繰上げ受給の割合は以下のとおりです。

 

国民年金(基礎年金のみ)の繰上げ率:23.2%  

厚生年金の繰上げ率:1.2%  

 

自営業者などに多い国民年金受給者の約2割以上が繰上げを選択しているのに対し、会社員だった厚生年金受給者で繰上げを選ぶ人はわずか1.2%にとどまります。多くの元会社員は、65歳までの再雇用制度を利用し、繰り上げずに受給開始を待つのが一般的な実態です。

 

損益分岐点(80歳10ヵ月)

60歳0ヵ月で繰上げ受給(24%減額)を行った場合、65歳から満額受給した場合との累計受給額が逆転する「損益分岐点」は80歳10ヵ月となります。81歳以上長生きした場合は「65歳受給開始のほうが得だった」という計算になりますが、これはあくまで健康で生き続けた場合の数字上の損得に過ぎません。

 

繰上げ受給のメリット  

・体力が残っている60代前半のうちに自由な時間とお金を得られる。

・早期リタイアや趣味、夫婦での時間を優先したライフスタイルを実現できる。

・80歳前で万が一のことがあった場合でも、受け取れるはずだった年金を確実に享受できる。

 

繰上げ受給のデメリット、注意点  

・受給額が一生涯24%減額されるため、80歳以降の長生きリスクに対する備えが薄くなる。

・繰上げ請求後に重い障害を負っても「障害年金」が請求できなくなる場合がある。

・遺族年金の受給時に一部制限が生じることがある。

 

年金を何歳から受け取るべきかという問題に、万人に共通する単一の正解はありません。「長生きリスク」に備えて受給額を増やす(繰り下げる)視点も重要ですが、自身の健康状態、家族の資産背景、そして「人生の時間をどう使いたいか」という価値観に基づき、後悔のない選択を行うことがなによりも大切です。

 

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