「年金を早く受け取りたい」――そう考えて、深く考えずに繰上げ請求をしてしまう方は少なくありません。しかし繰上げは、自分の年金額が減るだけでは終わらないことがあります。ある夫婦の相談では、夫が62歳で繰上げ請求をしただけで、65歳の妻が受け取るはずだった加給年金127万円あまりが消えてしまいました。年金相談の現場を数多く見てきた特定社会保険労務士のゆかねぇ先生が、実例をもとに解説します。
「あなたが年金の繰上げさえしなければ、私は…」62歳夫の年金前倒し請求で65歳妻が失った<127万円の加給年金>【社労士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

繰上げを検討する家族が損をしないための改善策と社労士からのアドバイス

今回のケースのように、繰上げ請求は本人の年金だけでなく、配偶者の年金にまで影響することがあります。単身者であればそこまで気にする必要はありませんが、配偶者がいる場合は特に注意が必要です。

 

【本事例のまとめ:夫婦の年金の最終的なゆくえ】

  1. 本人の年金(生涯の減額):繰上げにより、佐藤さん本人の年金は年間約30万円、一生涯にわたり減額される
  2. 加給年金(消滅):本来あと3年間受け取れるはずだった妻・久美子さん分の加給年金、合計1,271,100円が、繰上げ請求をした瞬間に消滅する。
  3. 世帯全体の影響:本人の減額と加給年金の消滅を合わせると、繰上げによる世帯全体への影響はさらに大きくなる。

 

【年金に強い社労士が教える3つの防衛策】

1. 「自分の年金が減るだけ」と思い込まないこと

繰上げの影響は本人の年金額だけにとどまりません。配偶者に加給年金がついている、あるいはこれからつく可能性がある場合は、繰上げによってそれが消える場合があることを必ず確認してください。

 

2. 「受給権の発生タイミング」を意識すること

加入期間が20年を超えていても、配偶者に受給権が発生していなければ加給年金は出続けます。繰上げ請求は、この受給権を自ら早めに発生させる手続きであることを理解しておきましょう。

 

3. 「本来の額」と「繰上げ後の額」を必ず世帯単位で試算すること

年金相談の現場では、この2つの試算を並べてお見せし、デメリットを一つひとつ確認したうえで署名をいただいてから請求手続きに入ります。自分の年金額だけでなく、配偶者の加給年金も含めて世帯全体でシミュレーションすることが、後悔しないための一番の防衛策です。

 

 

坂部 由佳
オフィス・ゆか
特定社会保険労務士