ミドル世代の地方移住では、大幅な収入減やキャリア喪失への不安がつきまといます。しかし、長年築いた実績や年収条件にこだわりすぎると、かえって選択肢を狭めることも。今回はあるベテラン会社員の事例を通じ、移住先での新たな働き方について考えます。
地方移住して良かったです…月収〈55万円〉から〈30万円〉に激減した52歳男性。「営業一筋30年」のキャリアを捨てて見つけた意外な仕事 ※写真はイメージです/PIXTA

30年のキャリアを手放した先で

52歳で、30年続けた仕事を辞める。

 

簡単な決断ではありませんでした。

 

「正直、もったいないと思いました。ここまでやってきたのに、全部捨てるのか、と。でも、夫婦で地方に移ると決めた以上、東京の自分にしがみついていても仕方がない」

 

そこで長谷川さんは、仕事探しの条件を変えました。

 

業界も職種も限定しない。営業経験が生かせるかどうかも問わない。

 

「極端に言えば、何でもいいと思いました。夫婦で普通に暮らしていけるなら、それでいい。月収55万円を基準に考えると、仕事がないんです」

 

すると、求人の見え方が変わりました。

 

地元の企業、観光関連、サービス業、建設関連。これまでなら応募することすら考えなかった仕事が、選択肢として浮かび上がってきました。

 

長谷川さんが選んだのは、地域の観光施設を運営する会社でした。

 

月収は約30万円。

 

東京時代から25万円減りました。

 

移住前は家賃14万8,000円の賃貸マンションでしたが、現在は家賃6万5,000円。車の維持費はかかるものの、夫婦の生活費は月24万円前後に収まっています。

 

貯蓄のペースは、当然ながら以前より遅くなりました。

 

「老後のことだけを考えれば、55万円もらっていたほうが安心ですよ。そこは間違いありません」

 

それでも、今の仕事を後悔してはいないといいます。

 

施設の運営、来場者への対応、地域の事業者との連絡。営業とはまったく違う仕事です。

 

「東京にいたら絶対に選んでいません。そして、やってみたら、こんなに面白いとは思いませんでした」

 

地域の人と話す。初めての仕事を覚える。これまで知らなかった業界の事情を知る。

 

営業として身につけた、人の話を聞き、調整する力も役立っているといいます。

 

「キャリアを捨てたと思っていました。でも、経験まで捨てたわけじゃなかったんですよね」

 

地方に移住すれば、仕事の幅が狭くなるとは限りません。もちろん、希望する給与や職種によっては、選択肢が限られることもあります。収入が大きく下がる可能性もあります。

 

だからこそ、移住前には生活費や貯蓄を計算し、収入が減っても暮らしていけるかを確認する必要があります。

 

ただ、長谷川さんの場合、仕事を狭めていたのは地方ではなく、自分自身の30年のキャリアでした。

 

「東京の仕事を辞めたときは、選択肢が減ると思いました。でも、こだわりを1回捨てたら、逆に仕事選びの選択肢が増えました」

 

収入は大きく減りました。それでも移住しなければ、今の仕事を知ることもなかったでしょう。

 

「正直、東京にいたころは仕事がしんどかった。今は、仕事が楽しい。そう思えるのも移住したから。本当に、移住して良かったと思っています」