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公務員時代の同僚からもたらされた儲け話
将来への不安を抱えるなか、思いもよらぬ話が茂さんにもたらされます。
ある知人からの投資話で、複数の事業に資金を出資し、その利益の一部を定期的に受け取る仕組みだと説明されました。資料には事業内容が並び、将来性も強調されていました。
「銀行に置いていても増えない。俺たちくらいの資産があるなら、少しは運用したほうがいい」
知人はそう話しました。
茂さんも、まったく警戒していなかったわけではありません。しかし、話を持ちかけてきたのは、長年の付き合いがある元同僚。このことが判断を鈍らせました。
「知らない人から電話があったなら、絶対に断っていた。でも、相手は公務員時代の同僚。信頼していた」
さらに、提示された条件も茂さんの気持ちを動かしました。預金より有利な分配金。元本についても大きな問題はないような説明。そして、「すでに参加している人がいる」という話でした。
本来なら、仕組みを理解できない投資に大金を入れるべきではありません。しかし茂さんは、「元公務員として慎重に生きてきた自分が選んだのだから、大丈夫だ」と考えるようになっていました。
夫婦は退職金のうち1,500万円を一括で出資しました。しばらくは、約束された時期に分配金が振り込まれました。
茂さんにとって、それは安心材料になりました。
「ほら、ちゃんと入っている。銀行に寝かせておくよりよかった」
恵子さんも、その時点では強く反対できなかったといいます。問題は、夫婦が「最初に分配金が出た」ことを、投資の安全性そのものだと受け止めてしまったことでした。
事業が本当に順調なのか。
分配金の原資は何なのか。
途中で解約する場合、資金はいつ戻るのか。
確認すべきことは多くありました。しかし茂さんは、紹介者との関係もあり、細かな質問を重ねることをためらいました。
「疑うのは失礼だと思った」
茂さんは、さらに500万円を追加しました。ところが、数年後から入金が遅れ始めます。
事業者に問い合わせると、「一時的な資金調整です」「来月には改善します」と説明されました。
茂さんは不安を感じながらも、すぐには動けませんでした。ここで資金を引き揚げようとすれば、「自分の判断が間違っていた」と認めることになるからです。
そして、分配金は止まりました。
「なんでこんなことになったのよ」
「君だって反対しなかっただろう」
夫婦の間で激しい口論になりました。
投資先とのトラブルが表面化した時点で、夫婦の状況はすでに悪化。出資した元本2,000万円の回収は進まず、預貯金も生活費の補填で減少の一途。このままでは貯金が底をつくという危機が、現実味を帯びていました。
紹介者や事業者との返還交渉を進めましたが、契約内容をめぐって主張が対立し、すぐに全額が戻る状況ではありません。先行きが不透明ななか、夫婦は家計の見直しを迫られています。
金融経済教育推進機構『金融リテラシー調査2025年』によると、投資信託や外貨預金等を購入した人のうち約3割(投資信託29.3%、外貨預金等32.3%)が「商品性を十分に理解せずに購入」と回答。また、定年退職後の生活費を意識していながら、実際に「資金計画を策定している人」は40.1%にとどまります。
ゆとりのある老後資金であっても、インフレへの焦りから安易な投資話に乗ってしまった佐々木さん夫婦。収支状況を踏まえた現実的なライフプランを主体的に描くことが、老後破綻を防ぐカギといえるでしょう。