水族館・動物園・遊園地――テーマパークに足を延ばすと、入園料や外食代、おみやげ代などで1万円近くが飛んでいってしまいます。限られた年金で生活する人にとって、1万円の出費はかなりの痛手です。しかし、「育児に疲れている娘に少しでも休んでもらいたい」「孫を喜ばせたい」という気持ちから、誘いを断れずにいる人もいるのではないでしょうか。金銭的な事情と親心との間で悩む谷崎ウメさん(仮名・76歳)の事例を見ていきましょう。
「お金も体力もギリギリ、だけど…」月11.5万円の年金で生活する76歳女性が、娘と孫からの〈シルバーウィークのお誘い〉をどうしても断れないワケ ※写真はイメージです/PIXTA

毎年、この時期になると気分が重くなる

谷崎ウメさん(仮名・76歳)は、毎年シルバーウィークが近づくと少し気分が重くなります。

 

その理由は、毎年恒例となりつつある娘家族とのお出かけ。娘のアキさん(仮名・45歳)、アキさんの長男・シュウトくん(仮名・9歳)、長女のユキカちゃん(仮名・6歳)と一緒に、水族館や動物園、遊園地などに遊びに行くのがここ数年の暗黙の了解となっていました。

 

「今年はシュウトのリクエストでアスレチックパークに行こうと思ってるから、よろしくね」


9月の上旬に、娘のアキさんからウメさんの携帯にメッセージが入っていました。3年前は水族館、一昨年は動物園、昨年は遊園地、そして今年はアスレチックパーク――。シュウトくんが大きくなるにつれて、たくさん動き回れる場所に行きたがるようになりました。

 

「アスレチックパークね…よくわからないけど、次の日には動けなくなってしまいそうだわ」

 

ため息をつきながらも、ウメさんは「わかりました」と返信しました。

 

父親のいない連休を母娘で乗り切る

「そんなに嫌なら行かなければいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、このお出かけはただの遊びではなく「父親不在の間の子守り」なのです。

 

アキさんの夫は、シルバーウィークになると一人で青森の実家に帰ります。数年前までは家族全員で帰省していたのですが、足腰の悪い夫の両親から「みんなで来てもらっても何のお構いもできなくて申し訳ないから、帰省は息子だけでいい」と言われたそうです。その結果、夫が実家に帰省しているシルバーウィークのうち一日は、ウメさんを含めた4人でお出かけをすることになりました。

 

3年前に4人で水族館に行ったとき、ウメさんはアキさんにこんなことを言われました。

「お母さんが来てくれて助かるよ。一人で子ども2人連れて遠出するのは本当に体力持って行かれるから」

夫が不在の間、元気盛りの子ども2人の面倒を一人で見る大変さは、ウメさんもよくわかります。だからこそ、多少無理をしてでも娘の力になりたいと思ったのです。


娘に休んでもらいたい、孫を喜ばせたい…つい無理をしてしまうウメさん

午前10時、アスレチックパークに到着すると、シュウトくんとユキカちゃんが勢いよく走り出します。「ちょっと、走らないの!」と言いながら2人を追いかけるアキさんに、ウメさんは必死についていきます。

 

命綱を装着して樹上のロープ橋を颯爽と渡るシュウトくんと、地上付近の丸太遊具を夢中で登るユキカちゃん。ウメさんは「気をつけてね」「上手上手」と声を出しながらスマホのシャッターを切り続けます。アキさんは長距離運転で疲れてしまったのか、少し離れたベンチで休んでいます。

 

「ばぁば、トイレ行きたい」

 

「ばぁば、のどかわいた」

 

「おもちゃコーナー見に行きたい」

 

2人をトイレに連れていき、飲み物を買い、おもちゃコーナーで2人にねだられた昆虫採集セットとマスコットキャラクターのぬいぐるみをプレゼント。育児に疲れた娘に少しでも休んでもらいたいという思いと、孫を喜ばせたい思いから、ウメさんは張り切って2人のお世話をします。

 

17時過ぎまでたっぷり遊んだあと、ファミリーレストランでご飯を食べてから解散しました。


「お母さん、今日は本当にありがとう。じゃあまたね」

 

「ばぁば、来年も行こうね~!」


家に着いて一人になったウメさんは、リビングのソファに倒れ込みました。

 

「またね」と言ってもらえることがどんなに幸せか、ウメさん自身が一番わかっています。それでも、また来年も同じことが待っていると思うと、体力が持つのか不安なのです。