「公務員や大企業こそが勝ち組」といった親世代の古い安定観は、時に子どもの可能性を狭め、深刻な生きづらさを生み出すことも。親の望むレールを走り続けてきた子どもが、新しい出会いや価値観を通じて自立を果たすとき、親との対立は避けられません。事例を紹介します。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
「公務員の退職金2,200万円が誇りだった」テレビを見ては批判と悪口を繰り返す日々を送る60歳夫婦、同じく公務員の31歳一人息子の“結婚式の感想”を伝えたら…6年間〈初孫〉に会えなくなったワケ (※画像はイメージです/PIXTA)

相手方の家族の異質

息子Sさんの結婚式当日。父Tさんと母Yさんは、ちょっと驚く光景を目にしました。

 

披露宴の歓談中、息子Sさんが、新婦の父Hさんのテーブルに長く留まっているのを見たのです。2人は大声で笑い合い、釣りの話で盛り上がっています。Hさんの隣には白髪頭であごひげを生やし日焼けした中年男性もいます。Hさんの友人のようです。

 

「来月はみんなでまた船を出そう」そうHさんがいうと、息子Sさんは「絶対行きます」と、実の両親が見たこともないような笑顔です。その屈託のない表情に両親は驚いてしまいました。

 

「なにか騙されているんじゃないのかしら」そう、母親のYさんが口に出し、とっさに親族に止められます。

 

新婦の父Hさんは、社員30名ほどの精密部品製造業を営む経営者。役員報酬は年間およそ2,500万円。新婦の母は総合病院に勤める内科医とのこと。夫婦ともに明るく、趣味が多いと、Tさんらは息子から聞いていました。新婦のAさんは裕福な家庭で育ったようです。Aさん自身も都内の企業に勤め、31歳で年収450万円ほどを稼ぐしっかりとした女性でした。

 

新婦の両親は、話す言葉にカドがなく、周囲を自然と和ませる人たちでした。Sさんが新婦のAさんと付き合いはじめて以来、Hさんに誘われて釣りを始めたと聞いたとき、母のYさんは「そんな付き合いなんて面倒でしょう。困ったお義父さんだね」とそのときも悪くいいました。

 

それが、これほど深い付き合いになっているとは思ってもみなかったのです。新婦の父Hさんのテーブルには、経営者仲間がたくさん集まっています。みんな日焼けをした中年男性です。そのなかで、新婦の母も大声ではしゃいで、友人たちを笑わせています。

 

「みんな、信用できなそうな社長ばかりだな。遊んでばかりで仕事してないんだろ。どうせ借金を抱えて見栄を張ってるだけだ」と、Sさんの父Tさんがまた陰口をいいます。「中小企業なんていつ潰れるかわからないわよね。退職金だって雀の涙でしょうし。やっぱりSは手堅く公務員になって大正解だったわ。あんな家族とやっていけるのかしら。悪いことに巻き込まれなきゃいいけど」。Yさんも頷き、そう返しました。

 

晴れの舞台でも陰口が止まらない両親と身分の誇示が止まらないSさんの両親とは対照的に、新婦の家族の盛り上がりのなかで、Sさんは笑顔を絶やすことがありませんでした。