勤続数十年を勤め上げ、手にしたまとまった退職金。「長年頑張ってきた自分へのご褒美に」という開放感は、ときにシニア世代の金銭感覚を激しく麻痺させます。事例を見ていきましょう。※事例の人物名はすべて仮名です。
「せっかくだから」が口癖の65歳父、定年後の「せっかくだから」連発で“退職金2,400万円”を失ったワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「退職金ハイ」と固定費肥大化のリスク

厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』によると、大卒・大学院卒(管理・事務・技術職)の勤続35年以上の平均退職給付額(制度併用含む)は1,896万円〜2,000万円を超え、大企業では2,400万円規模に達することも珍しくありません。

 

口座に一括で入金されるこれほどの大金は、それまで真面目に節約生活を送ってきた人ほど「金銭感覚の麻痺」を引き起こします。金融広報委員会『家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](2023年)』においても、定年退職を迎えた世代が退職金の使い道として「日常の生活費」だけでなく「旅行・レジャー」や「耐久消費財(車など)の買い替え」「住宅リフォーム」を挙げる割合が高く、計画的な切り崩しができずに数年で大幅に資産を減らしてしまうケースが散見されます。

 

単なる旅行や外食であれば、出費はその場限りの「点」で終わります。しかし、事例のように「せっかくだから」と高級車へ買い替えたり、過剰なリフォームを行ったりすると、その後に継続して発生する維持費、税金、管理費という「線」の固定費が急増します。

 

総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、月の可処分所得が平均22万1,544円なのに対し、消費支出は26万3,979円。税や社会保険料も含めると、実収入に対する支出の不足分は月4万2,434円となっています。ここに高級外車の維持費や住宅の維持管理費という固定費が乗っかると、年金収入だけで家計を回すことは不可能となり、一気に破綻へ向かって加速します。

 

長年の労をねぎらうこと自体は大切です。退職金全額を同一口座に置くのではなく、たとえば「退職金の10%(240万円)だけは自由に使っていいお楽しみ枠」として分離し、残り90%は定期預金などに隔離して手をつつけない仕組みを作ります。

 

「せっかくだから」とグレードを上げる前に、購入後にかかる毎月・毎年の税金や維持費を必ず紙に書き出します。退職後の年金収支の中でその固定費が払い続けられるのかを事前に客観視することが、老後の資産戦略で重要なポイントです。

 

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