「ひとり暮らしは心配だから」と、親のためを思って老人ホームへの入居を勧める――しかし施設選びを間違えるケースもまた、少なくありません。ある母娘の出来事から、高齢期の住まい選びを考えます。
「お母さん、本当にごめん…」〈年金14万円〉84歳母に老人ホーム入居を勧めた52歳娘。半年後、施設で目にした絶望の表情 ※写真はイメージです/PIXTA

「ひとりで大丈夫」と言う母に、娘が勧めた老人ホーム

「お母さん、これから先のことを考えたら、老人ホームに入ったほうが安心だよ」

 

52歳の高橋真由美さん(仮名)が、84歳の母・高橋和子さん(仮名)にそう話すようになったのは、母が80歳を過ぎたころからでした。

 

和子さんは夫を亡くしてから、長年ひとりで暮らしていました。年金は月14万円ほど。

 

大きな持病はありません。買い物もでき、食事も自分で作り、掃除や洗濯もこなしていました。近所の友人と会うこともありました。

 

真由美さんは、母が元気なことはわかっていました。それでも気になっていたのが、この先のことでした。

 

「今は元気でも、転んだりしたらどうするの? 誰が助けてくれるの?」

 

真由美さんはひとり娘です。何かあったとき、自分がすぐに駆けつけられるとは限りません。仕事もあり、自宅と母の家も気軽に行き来できる距離ではありませんでした。

 

そこで母娘は、終活について話し合うようになりました。

 

和子さん自身も「迷惑をかけたくない」と考えていたため、話は思ったより早く進みます。

 

実家は売却することにし、長年使ってきた家具や衣類も整理しました。そしていくつかの施設を見学したうえで、食事や掃除、洗濯などの生活支援が充実した介護付き有料老人ホームへの入居を決めました。

 

「ここなら安心だね」

 

見学したとき、真由美さんはそう思ったといいます。

 

施設にはスタッフがいて、食事も用意されます。困ったことがあれば相談もでき、何より母がひとりで暮らす心配がなくなります。

 

内閣府の『令和8年版高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らしは男女とも増加しています。高齢者の生活では、住まいの確保や医療・介護への備えが重要な課題となっています。一方で、内閣府は65歳以上を一律に捉えることは現実的ではないとも指摘しています。年齢だけでなく、健康状態や生活の実態を踏まえて考える必要があります。

 

ホームに入居して半年ほど経ったころ、真由美さんは施設を訪れて母の様子を見たとき、以前とは違う印象を受けました。