(※写真はイメージです/PIXTA)
娘が嫌う「父の口癖」
娘のコハルさん(36歳)にとって、65歳になる父・タツロウさんの口癖「せっかくだから」は、幼少期から心底嫌なもののひとつでした。
現役時代のタツロウさんは、筋金入りの節約家でした。家族で外食へ行けば「せっかくだから一番高い肉にしろ」といいつつも実際にメニュー表を見ては「やっぱり全員これにしよう」と安いセットを選ばされたり、家族旅行に行けば「せっかくだからロープウェーに乗ろう」といいながらも、ロープウェーの料金を知ると、「歩いたほうがいい」と険しい山道を登山させられたり。コハルさんにとって父の「せっかくだから」は、一瞬見栄を張るためのワンクッションであり、結果としてケチな浅ましさが露呈する象徴のような口癖に感じられていたのです。
ところが、タツロウさんが定年退職を迎え、2,400万円というまとまった退職金を手にしたことで、その口癖は不気味な変容を遂げはじめます。40年間自分を抑圧してきた節約生活の反動と「長年勤め上げたご褒美」という意識が結びつき、父の「せっかくだから」は徐々に豪快な散財へとシフトしていきました。
退職直後は、「せっかくだから」とスーパーで高額な刺身の盛り合わせを買い毎晩晩酌を楽しむ程度のものでした。コハルさんも父の長年の苦労を思い、微笑ましく見守っていました。しかし、一度緩んだ金銭感覚のブレーキは止まりません。
10年乗った国産コンパクトカーの車検が近づくと、「人生最後の車になるかもしれない。せっかくだから憧れだった外車の大型SUVにしよう」と、800万円の高級輸入車をキャッシュで購入しました。さらに自宅の雨漏り修繕を検討した際も、業者のカタログを見ながら「せっかくだからキッチンも最新式に」「せっかくだからお風呂も広げて床暖房を入れよう」と要望を膨らませ、1,000万円規模の大規模リフォームへと発展してしまったのです。
さらには「せっかくだから最高峰のコースで回りたい」と高級ゴルフ会員権を購入し、高級旅館への旅行を連発。家族が「そんな勢いでお金を使って将来大丈夫なの?」と諌めても、タツロウさんは「俺が死ぬ気で稼いだ金だ!」と耳を貸しませんでした。
そして70歳を迎えた現在。2,400万円あった退職金は完全に底をつきました。
後に残ったのは、広すぎる最新設備の維持費や、高級外車の高い車検代・自動車税といった重い固定費の数々です。毎月入る年金だけでは到底支払えるはずもなく、現役時代の節約で貯めてきた大切な貯蓄を取り崩さずにはいられなくなりました。昔嫌っていた父の口癖が招いた愚かな結末に、コハルさんはただ驚くばかりです。