「厳しく指導すればパワハラと言われ、優しく接しても『成長を感じない』と去っていく」――。せっかくコストと時間をかけて育てた新入社員が早期離職してしまう問題に、頭を抱える現場の上司は少なくありません。なぜ、どのタイミングで彼らの心は離れてしまうのか。吉田直実氏の著書『中間管理職の生存戦略 自分の「思い込み」に気づき最適解を見つける本』(ごきげんビジネス出版)より、新入社員が抱える「見えない不安」の正体と、実践的な新人育成アプローチを紐解きます。
採用・教育コストをかけたのに早期離職…面談では「大丈夫」と笑っていた新人が、誰にも言わずに退職届を出す理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

言語化されないままふくらむ不安が「もういいや」へ

1.「対話型」と3.「成功経験型」を組み合わせてみるのはどうでしょうか。早期離職の多くは、「能力不足」よりも、「自分はここにいていいのか」「このままここにいても成長できるのか」という、見えにくい不安からはじまります。この不安は放っておいても勝手に消えてはくれません。むしろ、言語化されないまま心の中でふくらみ、「もういいや」というあきらめに変わっていきます。

 

まずは週2回・15分程度の対話を、最低3か月は「必ずやる」と決めてしまいましょう。内容は評価ではなく、「最近一番楽しかったこと・しんどかったこと」「わからないままにしていること」を聞き出す場と位置づけます。

 

このとき、「そんなの気にしなくていいよ」と軽く流さず、「そう感じたのですね」と、一度受け止める姿勢が大切です。なぜなら、感情を否定されると人は黙り込むようになるからです。

 

次に、対話で出てきた不安や戸惑いをヒントに、「ここを一緒に乗り越えてみよう」という小さなチャレンジを設定します。「次の打ち合わせで、冒頭5分の説明だけ担当してみよう」「この資料のドラフト版をまずはつくってみよう」などです。実行後には、「この部分の準備がよかった」「この言い方は相手に伝わっていた」など、具体的な行動レベルでよかった点を伝えます。

 

ポイントは、「できていないところの修正」よりも、「できたところの再確認」に時間を使うことです。自分の成長を実感できると、人は多少のしんどさがあっても踏みとどまりやすくなります。

 

対話の終わりには、「来週までに、あなた自身が試してみたいことは何か」を必ず問いかけてみてください。上司が決めた課題だけでなく、本人が自分で決めた小さなチャレンジをもてたとき、「ここで成長しているのは自分だ」という実感につながります。

 

早期離職を防ぐとは、「会社にしがみつかせる」ことではなく、「ここで成長できるかどうかを、自分で選べている感覚」を育てることだと考えます。

一番の問題は、「辞めさせないために囲い込む」育成

「定着」とは、なんでしょうか。それは、ただ在籍年数が長いことではなく、「ここにいることを自分で選び続けている状態」ではないかと思うのです。

 

では「育成」とは、なんでしょうか。それは、知識やスキルを教え込むことではなく、「自分で選び、試し、失敗しながらも成長していける土台を一緒につくること」ではないかと思うのです。

 

「早期離職=悪」「すぐ辞めるのは根性がない」などと、考えてしまってはいないでしょうか。この見方には、「若手は我慢すべきだ」という思い込みが強く含まれているのではないでしょうか。このような思い込みを強くもっている上司の下では、「辞めたいほどしんどい」と感じていても、それを口に出した瞬間に評価が下がるのではないかと恐れ、誰にも相談できないまま突然の退職につながることがあります。

 

管理職側の思い込みとして、「手厚く関われば離職は防げるはずだ」「こちらが努力しているのだから、辞めるのは裏切りだ」などと考えると、相手の選択を受け止められなくなるでしょう。

 

しかし、本来キャリアの選択権は本人にあります。組織にできるのは、「ここで働くことの意味」を一緒に考え、「残る選択も、出ていく選択も、本人が納得して選べる状態」に近づけることだけです。そのためには「辞めたい」という言葉をタブーにせず、「そう感じる理由を一緒に整理しよう」と言える関係が必要です。

 

皮肉なことに、新入社員や若手社員は「辞めてもいい」と言える職場環境のほうが、「もう少しここでがんばってみよう」と思いやすくなるともいわれています。「逃げられない場所」ではなく、「いつでも相談できて、自分で選べている感覚をもっている」ことが、定着の前提条件ともいえるのではないでしょうか。

 

今一度、自らに問い直したい。自分は「辞めさせないために囲い込む」育成をしていないか。「この会社に残るかどうかを、自分の頭で選べる人材を育てる」という視点を、どれだけもてているか。

 

 

吉田 直実

なおみ税理士事務所 代表

元国税職員/一般社団法人日本推進カウンセラー協会認定 認知行動療法士

 

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