裕福な老後を送りながらも、我が子のひきこもりに苦悩する――ある親子の事例から、中高年のひきこもりに対し、無理に社会復帰を迫るのではなく、「親亡き後の生活設計」から解決の糸口を探る選択肢を見ていきます。
「自慢の息子だったのに…」〈年金月40万円〉〈貯金3,000万円〉勝ち組の70代夫婦、「実家に引きこもる」45歳長男にかけた唯一の言葉 ※写真はイメージです/PIXTA

支援の糸口は「親自身の相談」と「お金の可視化」

転機となったのは、浩さんが知人に勧められて参加した「ひきこもり当事者の家族会」と、自治体の社会福祉協議会が行っている「生活困窮・家計改善の専門相談窓口」への訪問でした。

 

そこで専門家から告げられたのは、「無理に社会復帰を迫るのではなく、まず『親亡き後の生活設計』を可視化して本人の不安を取り除くこと」の大切さです。ひきこもる当事者の多くは「自分は税金も納めず社会に迷惑をかけている」という強い罪悪感に苛まれています。お金の出口を明確にすることこそが、罪悪感を和らげる第一歩になるというわけです。

 

公的な相談窓口でサポートを受けながら計算した結果、教員年金の蓄えや自宅資産を整理すれば、親が亡くなった後も修一さんは約25年間、福祉や遺族年金などの制度を活用しながら生活を繋いでいけることが判明しました。

 

ある日の夕方、浩さんは2階の修一さんの部屋のドアを叩きました。これまでのように「将来どうするんだ」「いつ働くんだ」といった問い詰めは一切口にしません。

 

「今日、お前がこれから生きていくための『親亡き後の生活設計表』を公的な相談窓口で作ってきた。私たちが死んだ後、お前がどうすれば安心して暮らせるか、ドアの下に資料を挟んでおくから、気が向いた時に見てほしい」

 

説得も指示もせず、ただ「あなたの存在を否定しない」「将来の安全を確保した」という事実だけを伝えたそうです。
部屋からは返事もありませんでした。しかしその夜、ドアの下に挟んだ試算表の紙は消えていたのです。

 

数日後、修一さんから数年ぶりとなる短い手紙がリビングのテーブルに置かれていました。「心配をかけてごめんなさい。お金の表、読みました」と書かれています。

 

内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』によると、40〜69歳における広義のひきこもり出現率は2.97%です。また、これまでに困難な状態から改善した経験のある中高年当事者のうち、改善のきっかけとして「家族や親戚の助け」を挙げた割合は35.5%に上ります。

 

親自身がまず専門の相談窓口等に繋がり、生活設計などの具体的な支援体制を可視化して整えることが、状況を好転させる大きな契機となるのです。