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手厚い年金収入と、静まり返る2階の気配
東京都内の閑静な住宅街に居を構える佐藤浩さん(仮名・75歳)と妻の恵子さん(仮名・73歳)。ともに元公立小中学校の教員でした。2人の年金受給額は、合計で月額約40万円。現役時代に住宅ローンを完済し、貯金は3,000万円以上あります。
総務省『家計調査 貯蓄・負債編(二人以上の世帯)2025年平均』によると、世帯主が75歳以上で無職の世帯(75歳以上の者がいる世帯)の平均年間収入は382万円、平均貯蓄現在高は2,392万円です。
佐藤さん夫妻が受け取る年金月額40万円(年間480万円)や、3,000万円以上の老後資金はこれらの平均を大きく上回っています。本来であれば資金に困るはずのない「勝ち組」の老後を迎えるはずでした。
しかし、夫婦の表情は晴れません。原因は、自宅の2階でひっそりと暮らす45歳の長男・修一さん(仮名)の存在です。
修一さんは一流国立大学を卒業後、国内有数の大手企業に就職しました。親族の誰もが「自慢の息子」と称えていたほどです。ところが30代半ば、職場の対人関係で挫折して退職してしまいました。
その後、意を決して再就職に挑むものの不採用が続き、「自分は社会に必要とされていない人間なんだ」という強い自責の念に囚われます。失意のまま実家に戻り、いつしか自分の部屋から出なくなっていきました。
「教職に就いていた私達ですが、自分の子どもへの対応については無力でした。最初、『また働けばいい』と焦らせてしまい、かえって息子を追い詰めてしまったんです」と浩さんは肩を落とします。
修一さんは家族と顔を合わせようとせず、食事は恵子さんがドアの前に置いた盆を、深夜に引き取って食べています。小遣いこそ渡していないものの、食費や光熱費、ネット通販の請求はすべて親の年金から支払われている状態です。
夫婦の年金月40万円(手取り33.5万円ほど)という経済的余裕は、皮肉にも問題を長引かせる要因になってしまったと言います。生活が成り立ってしまうがゆえに「金銭や将来の話」は家庭内のタブーとなりました。70代半ばを迎えた夫婦の胸には「自分たちが死んだら、この子はどうなってしまうのか」という不安だけが募っていったのです。