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定年後から始まる、義母との同居生活
誠さん自身は、老後のお金については不安がないと思っていました。退職金は1,800万円。預貯金は3,200万円あります。住宅ローンは55歳で完済。持ち家のため、毎月の住居費は固定資産税などを除けば大きくありません。65歳から受け取る予定の年金は、夫婦合わせて月30万円近くになる想定です。
「これなら、老後安泰。定年を迎えたら、何をしようか……」
そう考えていました。一方で、明美さんの関心は母・洋子さんのことでいっぱい。生活のベースとなる年金は月11万円ほど、現在、介護サービスや医療費などで月3万円ほどかかっていました。毎月の貯蓄の取り崩しは、月2万~3万円でしたが、今後、物価高や介護度が上がると、支出も増えていきます。年齢だけでなく、経済的な面でもこのまま一人暮らしを続けていけば、近いうちに限界が来るのではないか――そんな心配をしていたのです。
探りを入れるように実家を売却し、東京に呼び寄せ、同居を始める。そうしたら経済的な問題もクリアとなる――そして現実の問題として、誠さんに相談をしていたのです。
「聞いてなかったんでしょ。定年退職の日になるけど、私、実家に戻るね、と何度も言っていたのに」
意地悪そうな顔をしている明美さんの顔が目に浮かびます。
「覚えてるよ……で、いつから同居が始まりそうなの?」
「あまり急ぐと、お母さんにも負担になっちゃうから、1ヵ月、2ヵ月くらい先から。安心して、家の売却は決まったから」
誠さんの知らないところで、着々と準備は進められていました。これから介護サービスの引き継ぎについて、ケアマネジャーと相談をしていくといいます。
「わかった。こちらもできることはするから、ちゃんと言って」
思い描いたのは、「おつかれさま」と妻が出迎えてくれて、その後、これまで勤めてきたお祝いとして、旅行のことについて思いを馳せる――そんな定年退職の日でした。しかし、現実は随分と違うものだったのです。
「とりあえず、妻が帰ってくるまで一人なので、自由を謳歌しようと思います」
厚生労働省『国民生活基礎調査』によると、同居する主な介護者の63.7%(要介護者10万対で、全体46,061のうち29,360)が「悩みやストレスがある」と回答しています。その最大の原因は「家族の病気や介護」(22,929)で、「自由にできる時間がない」(5,830)などが続きます。
妻の明美さんが該当する50代女性の介護者では実に69.3%がストレスを感じています。同居介護は家族全員の課題です。誠さんもいずれ「自分の自由な時間」を奪われる当事者になることを自覚し、夫婦で備える必要があります。