総務省『家計調査 貯蓄・負債編(2025年)』によると、高齢無職世帯の平均貯蓄額は2,520万円にのぼります。十分な資産がありながらも、定年後の家族関係や理想の暮らしとのギャップに直面し、思い悩むシニアは少なくありません。「豊かな老後」とは何かについて、ある夫婦の事例を通して考えていきます。
「お金で孫を釣るのはやめました」…〈年金月32万円・貯金4,000万円〉60代夫婦、孫に囲まれた「幸せなセカンドライフ」の行方 ※写真はイメージです/PIXTA

「孫がいるから幸せ」と思っていた

「老後は、孫たちに囲まれて暮らせると思っていたんです」

 

東京都内で妻の恵子さん(65歳・仮名)と住む、加藤隆さん(67歳・仮名)。現在の収入は年金のみで月32万円ほど。大きな負債はなく、預貯金を含めた資産は4,000万円ほどあります。

 

総務省『家計調査(貯蓄・負債編)2025年平均』によると、夫婦ともに65歳以上の無職夫婦1組の世帯における1世帯当たりの平均貯蓄額は2,520万円、平均年間収入は376万円、平均負債額は36万円です。

 

隆さんの世帯は年金収入が月32万円(年間約384万円)、預貯金を含む資産が4,000万円あり、負債はありません。同世代の平均的な世帯と比較して、貯蓄・収入ともに平均を大きく上回る状態です。老後資金として平均値より約1,480万円も多くの資産を保有しており、統計から見ても非常にゆとりのある家計状況にあることがわかります。

 

「現役時代は仕事が忙しかったので、ゆっくり旅行に行ったり、趣味を楽しんだりできなかった。これは定年後の楽しみだって」

 

隆さん夫婦には、すでに独立した長男と長女がいます。長女には5歳と2歳、長男にも3歳の娘がいました。どちらの家族も比較的近くに住んでいるため、週末になると長女一家が、長男一家も月に1度ほど遊びに来てくれます。家族との触れ合いも、定年後の楽しみのひとつになっていました。

 

「おじいちゃん、おばあちゃんの家に行きたい」

 

孫からそう言われることが、加藤さん夫婦にとって何よりの喜びでした。ただ変化が生じたのは、隆さんの退職から半年ほど経ったころです。

 

長女から「今月は仕事が忙しいから、土曜日に子どもを預かってもらえない?」と頼まれることが増えました。最初は快く引き受けていた恵子さんですが、月に3回、4回となると負担が大きくなります。

 

ある日、恵子さんが「毎週はちょっと難しい」と断ると、長女は不満そうに言いました。

 

「お母さんたちは、時間はあるんじゃないの?」

 

長女にとっては「定年を迎えた親は時間を持て余している。家族なのだから助けてもらうのは当然」という感覚でした。しかし恵子さんは、老後の時間を自分たちのためにも使いたいと考えていたのです。

 

さらに加藤さん夫婦は長女一家と長男一家に「今度、みんなで旅行にでも行かないか」と声をかけました。「費用はすべて私たちが負担するから、心配するな」と。しかし、返ってきたのは予想外の反応でした。長女からは「子どもがまだ小さいから、泊まりはちょっと大変かな」、長男からも「うちは家族だけで行く予定があるから」と断られてしまいます。

 

隆さんは、「じゃあ、日帰りならどうだ」と聞きました。すると「気持ちはありがたいよ。でも、俺たちは俺たちの都合があるからさ」と長男はぴしゃり。