総務省『家計調査 貯蓄・負債編(2025年)』によると、高齢無職世帯の平均貯蓄額は2,520万円にのぼります。十分な資産がありながらも、定年後の家族関係や理想の暮らしとのギャップに直面し、思い悩むシニアは少なくありません。「豊かな老後」とは何かについて、ある夫婦の事例を通して考えていきます。
「お金で孫を釣るのはやめました」…〈年金月32万円・貯金4,000万円〉60代夫婦、孫に囲まれた「幸せなセカンドライフ」の行方 ※写真はイメージです/PIXTA

お金を出せば喜んでくれると思っていたが…

これまで子どもたちには、住宅購入時に長男へ200万円、長女へ150万円を援助しています。孫の誕生日にはプレゼントを贈り、家族で食事をするときも、できるだけ支払ってきました。今回の旅行の誘いもそうです。

 

「正直に言えば、お金を出せば、子どもたちも孫たちも喜んでくれると思っていました。お金で釣ろうとしていたんです」

 

しかし、現実は違いました。お金を出すことと、子どもたちが親と一緒に過ごしたいと思うことは、別の話だったのです。

 

恵子さんにも、どこか割り切れない思いが残ります。

 

「孫のために使ったお金を返してほしいなんて思いません。でも、これだけしてきたんだから、もう少し一緒に過ごせたらいいのに、と思うことはあります」

 

それが夫婦の本音でした。

 

「『これだけしてもらっているんだから、たまには親のために時間を使ってよ』って思ってしまうんです。口には出しませんけど」

 

一方で、子どもたちにはそれぞれの生活があります。親が定年を迎えたからといって、子世帯まで生活を変える必要はありません。夫婦は今後、金銭的な援助と家族との交流を切り離して考えることにしました。

 

子どもから頼まれれば、無理のない範囲で助ける。ただし、自分たちの時間も大切にする。年間60万円ほどを旅行費に充て、恵子さんは陶芸教室にも通い始めました。

 

「孫が来てくれたら、もちろんうれしい。でも、孫が来るかどうかで、私たちの幸せまで決めないことにしました。以前は、お金さえあれば安心だと思っていました。でも、本当に大事なのは、それだけじゃないみたいですね」

 

内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』によると、家計に「心配がない」と答えた人が65.9%に上り、経済的な安心を得ている人は多くいます。しかし、お金だけで老後の幸せが完結するわけではありません。同府『令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』によると、生きがいを感じる場面は「孫など家族との団らん(55.3%)」が最多ですが、家族への過度な期待はすれ違いを生むこともあります。

 

大切なのは、経済的なゆとりを持ちつつも、家族のみに依存しない自立した関係を築くことです。自分自身の趣味や時間にもきちんと投資することが、心豊かな老後生活の鍵となります。