81歳母の施設入居の夜、娘のスマホに響いた悲痛な留守電。年金だけでは賄えない介護費用と深まる罪悪感は、多くの家庭が直面する現実です。共倒れを防ぐために親を施設へ託す選択は正解なのか――ある親子の事例から考えます。
年金12万円・81歳母「私をここに捨てるの?」…老人ホーム入居の夜、57歳娘のスマホに届いた「1分間の留守電」の衝撃 ※写真はイメージです/PIXTA

介護離職を避けた先の選択

罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、由美子さんは仕事を辞めなかった判断自体は間違っていなかったと考えています。仮に介護離職を選んでいれば自身は収入を失います。いつか介護から解放されたあとの生活を考えると、仕事を辞めるわけにはいきませんでした。しかし、施設に入居させればすべてが解決するわけではありませんでした。

 

入居から1ヵ月が経過した現在も、静子さんからの電話は頻繁にかかってきます。「早く迎えに来て」「お金を返して」という言葉が、由美子さんの精神を削り続けます。

 

施設のアドバイザーやケアマネジャーは、「最初は家族への執着が強く出る時期。徐々に環境に慣れていきます」と助言してくれます。専門家を交えた定期的な面談を設定し、少しずつ外部の支援に委ねる距離感を保つことが推奨されています。

 

「母を捨てたという感覚は、ゼロにはなりません」

 

由美子さんは言います。毎月、母の口座から21万円が引き落とされ、通帳の残高は確実に減っていきます。共倒れを防ぐための苦渋の選択であっても、血のつながった親を施設へ預けたという罪悪感と、いつか尽きるかもしれない資金への不安は消えないと語ります。

 

生命保険文化センター『2025年度 生活保障に関する調査』によると、将来親を介護する立場になった場合に「不安を感じる」割合は71.9%。その具体的な内容としては「自身の肉体的・精神的負担」(66.1%)や「経済的負担」(49.2%)が上位を占めています。

 

また同センター『2024年度 生命保険に関する全国実態調査』では、実際の施設介護に要する月々かかる費用の平均額は12.5万円(在宅介護は3.7万円)とされており、加藤さんのように公的年金だけで賄うことは困難です。子が抱く心理的な罪悪感や将来的な資金ショートへの不安は、いつまでもつきまとい続けます。

 

しかし、限界を迎える前に専門家や施設へ頼る決断は、共倒れを防ぎ、お互いの人生と尊厳を守るための正当で有効な選択肢です。一人で抱え込まずケアマネジャーなどの支援者と連携しながら、親子の適切な「距離感」を整える――それこそが、将来的な負担を軽減し、互いにとって最善の暮らしを支える一歩となります。