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評判のサービスが母には逆効果
ところが入居から14日後の夕方でした。長男夫婦の自宅のインターホンが鳴ります。玄関を開けると、節子さんが一人で立っていました。タクシーで来たというのです。
「お願いだから……家に帰らせて」
施設で何か嫌なことがあったのか。職員とトラブルでもあったのか。問いかけると、節子さんは首を横に振りました。
「みんな本当に親切。ご飯もおいしいし、掃除もしてくれる。何でもしてくれる。何もしなくてもいい、本当に楽」
そこまで話したあと、涙が止まらなくなりました。
「でも、私、まだ何もできない人じゃないの。朝起きて、今日は何を着ようかって考えることもできる。自分でご飯を取りに行くこともできる。なのに、全部やってもらっていると……自分が急に年寄りになったみたいで」
節子さんはそう言って、うつむきました。入居前まで、洗濯も料理も買い物も、自分でこなしていました。足腰の衰えはありました。転倒への不安もありました。それでも、「自分のことは自分で決める」という生活を続けていたのです。
しかし施設では、安全のために先回りしたサポートが提供されます。転ばないように見守る。食事を準備する。体調を確認する。それは高齢者を守るための大切な支援です。一方で、本人が「まだできる」と思っていることまで周囲が手を出してしまうと、自分の役割や存在意義を失ったように感じる場合があるのです。
節子さんがつらかったのは、施設の生活そのものではなく、「老いた自分を、周囲から決められてしまったこと」だったのです。
内閣府『令和7年度高齢社会対策総合調査』によると、高齢者の39.0%が「就労を希望」し、その理由の25.1%が「老化防止や健康のため」と回答しています。さらに70.3%が「新たな知識やスキルの習得」を望んでおり、単に安全に保護されるだけでなく、自ら決定し能動的に生きたいという高齢者の強い自立心をうかがえます。
安全を最優先にするあまり手厚くお世話をしすぎることは、かえって本人の自尊心や意欲を奪ってしまうこともあります。ただ保護するだけでなく、親の「自分で決めたい」という想いや自立心を尊重したサポートのあり方を、今一度考えていく必要がありそうです。