親の安全を思い入居を決めた施設から、わずか14日で涙を流し長男宅へと戻ってきた86歳の母。良かれと思った家族の配慮が、ときに本人の「自分で決めたい」という自立心を傷つけてしまうことがあります。本記事では、ある親子の事例を通して、高齢となった親の尊厳と自立心を尊重した最適なサポートのあり方を考えます。
「お願いだから家に帰らせて…」〈年金月15万円〉86歳母、「老人ホーム入居」から14日、長男宅を電撃訪問した「涙の理由」 ※写真はイメージです/PIXTA

「これで安心」のはずだった

「もう一人では危ないよ」

 

東京都内で一人暮らしを続けてきた高橋節子さん(86歳・仮名)は、長男の健一さん(58歳・仮名)から何度もそう言われていました。

 

夫を亡くしてから12年。築48年の分譲マンションで暮らし続けてきましたが、ここ1年で転倒が2回ありました。買い物帰りに膝を打ち、浴室で立ち上がれなくなったこともあります。年金は月15万円ほど。管理費と修繕積立金で月2万4,000円、光熱費約1万6,000円、食費約4万円。決して余裕はありませんでしたが、預貯金は約1,300万円あり、「最後まで自宅で暮らす」と話していました。

 

ところが長男夫婦は心配を募らせます。

 

「もし夜中に倒れたらどうするの」

「救急車を呼べないかもしれない」

 

厚生労働省『2025(令和7)年 国民生活基礎調査』によると、65歳以上の人だけで構成される「高齢者世帯」において、一人暮らしは53.2%と、年々増加傾向にあります。また要介護状態等になった主な原因を見ると、「骨折・転倒」は14.6%と全体で第3位となっています。特に軽度の介護が必要な「要支援者」では14.7%(第3位)、より重度な「要介護者」では14.8%(第2位)が骨折・転倒を原因に挙げています。

 

高齢の独居世帯が増加するなか、不意の転倒が要介護状態に直結するリスクは高く、節子さんの一人暮らしを案じる長男夫婦の心配は当然のことといえるでしょう。

 

結局、長男夫婦との話し合いの末、節子さんは介護付き高齢者向け住宅への入居を決断しました。決めたのは、スタッフの面倒見の良さがネットで高評価を得ている施設。入居一時金は約250万円。月額利用料は18万5,000円。年金だけでは不足する約3万5,000円は預貯金から補う予定です。施設は新築同様。バリアフリーで、毎日の食事付き。24時間スタッフが常駐し、安否確認もあります。

 

長男夫婦は胸をなで下ろしました。

 

「これなら安心だね」

 

節子さんも、その日は笑顔でうなずいていました。