※写真はイメージです/PIXTA
実家で見た「母の姿」に言葉を失う
「お母さん、エアコンつけてないの?」
2026年8月のお盆休み。中村健太さん(43歳・仮名)は、久しぶりに訪れた実家で、思わず声を失いました。リビングにエアコンは設置されているものの、電源は入っていません。代わりに動いていたのは、20年以上使っている古い扇風機でした。その前に、母の中村和子さん(69歳・仮名)が座っていたのです。
「ちょっと休んでいただけ」
そう話しながらテレビを見ている和子さん。顔は赤く、首には濡らしたタオルが巻かれています。おでこには冷却ジェルシートが貼られ、よく見ると足元には水が張られた風呂桶があり、そこに足を突っ込んでいました。健太さんが室温計を見ると、34度を超えています。テーブルの上には朝から置かれた水の入ったコップがあり、ほとんど減っていません。
「なんでこんな部屋で我慢しているの」
健太さんが聞くと、和子さんは困ったように笑いました。
「だって、電気代が高いでしょう」
その言葉を聞いた瞬間、健太さんは腹立たしさと同時に、寂しさを感じました。母は生活に困っているから冷房を使えないのではありません。
「自分のことは自分で何とかする」という思いから、必要な支出まで抑えていたのです。
和子さんは夫を5年前に亡くし、現在は一人暮らしです。収入は遺族年金などを合わせて月約12万円。築42年の持ち家で暮らしているため家賃負担はありませんが、固定資産税や住宅の維持費がかかります。毎月の生活費は、食費が約3万円、水道光熱費が約1万8,000円、通信費や医療費、日用品代を合わせると、余裕があるわけではありません。
貯蓄は約1,000万円。決して資産がないわけではありません。それでも和子さんは、将来の修繕費や医療費への不安から、お金を使うことに慎重になっていました。
総務省の『家計調査 家計収支編(2025年)』によると、65歳以上の単身女性世帯における1カ月の平均消費支出は15万2,996円(うち電気代は8,371円)。和子さんの年金収入(月約12万円)は平均消費支出を約3.3万円下回っており、普通に暮らすだけでも貯蓄を取り崩さざるを得ないのが現実です。
また、1,000万円の貯蓄があっても、「長生きすればいずれ底を突くのではないか」という将来の医療費や介護費への強い不安から、猛暑下であっても命に関わるエアコンの使用さえ躊躇してしまう高齢者は少なくありません。