何気ない親の一言や些細な環境の変化がきっかけとなり、長年続いていた家族の集まりが途絶えてしまう――ある家族の事例から、「実家への帰省」は本当に毎年の習慣なのか、考えていきます。
「お盆はホテルに泊まって、と言っただけなのに…」年金月28万円・70代夫婦、長男家族の「お盆帰省消滅」で孫に会えないまま2年の歳月 ※写真はイメージです/PIXTA

「ホテルに泊まって」が境目だった

「今年のお盆だけは、近くのホテルに泊まってくれない?」

 

東北で74歳の夫と二人暮らしをする、佐藤恵子さん(72歳・仮名)。月28万円の年金が生活のベースです。築47年になる戸建ては老朽化が進み、70代となった夫婦には住みづらいものでした。ある日、夫が浴室で転倒したこともあり、思い切って大規模なバリアフリー改修を決断します。工事費は約700万円。預貯金を取り崩して対応しました。

 

総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査結果』によると、2019年以降に手すり設置など「高齢者等のための設備工事」を行った持ち家は全体の13.0%。世帯内の最高齢者が「65~74歳」の世帯では13.9%、「75歳以上」では22.2%へと上昇し、高齢化に伴い改修を行う世帯が増える実態が示されています。また、高齢者のいる世帯における住宅の「一定のバリアフリー化率」は45.4%にとどまっており、佐藤さん夫婦のように、配偶者の転倒などのトラブルを機に、老後資金を取り崩してバリアフリー改修を決断するケースは決して珍しくありません。

 

「老後資金が減ることには抵抗がありました。この先、どれくらい生きられるかわかりませんから、お金をかけてリフォームしても無駄になるかもしれませんし。しかし、我慢する生活を続けるのももったいないと思ったんです」

 

間取り変更や動線の見直しを含むリフォームで、工期は1か月強。2階には資材が積まれ、職人が毎日出入りします。ちょうどお盆期間を挟み、とても泊まれる環境ではありませんでした。そう考えた恵子さんは、お盆の帰省時に例年なら5日ほど滞在する長男家族に電話をかけました。

 

「悪いんだけど、今年だけホテルを取ってもらえない? 費用は私たちが半分出すから」

 

断る理由になるとは思っていませんでした。ところが、電話の向こうの長男は少し黙ったあと、低い声で言いました。

 

「そこまでして帰らなくていいかな。今年はやめるよ」

 

拍子抜けするほど、あっさりした返事でした。

 

「そう? じゃあ来年ね」

 

恵子さんも深く考えませんでした。来年であれば新しくなった家で孫たちを迎えられると思っていたのです。