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積もり積もった義娘の不満
同居3年目。限界は、思いがけない形で訪れます。それは土曜日の夜でした。綾子さんは仕事帰りにスーパーへ寄り、夕食を作り終えたばかりでした。そのとき茂さんが言います。
「味噌汁、少しぬるいな」
その一言に、綾子さんは何も返せませんでした。食後、子どもの進学費用について夫婦で話し始めると口論になります。
「私ばかり負担してる」
「父さんだって悪気はない」
「悪気がなければ何を言ってもいいの?」
健一さんは黙り込みます。沈黙が続いたあと、綾子さんの感情があふれました。
「もう出ていく」
「まあまあ」
「ならお義父さんが出ていけばいい」
隣の部屋にいた茂さんにも、その声ははっきり聞こえていました。そのとき、茂さんは初めて、自分が歓迎されていない存在になっていたことを理解しました。
数週間後、家族は市役所の地域包括支援センターへ相談しました。担当者から提案されたのは、民間の高齢者向け賃貸住宅や見守りサービスを利用しながら別居するという選択肢でした。そして自宅近くのサービス付き高齢者向け住宅へ入居することを決めたのです。家賃と食事代などで月約13万円。年金だけでは足りませんが、不足分は預貯金から補うことにしました。
引っ越しの日、茂さんは「迷惑をかけた」とお詫びをし、綾子さんも「ちゃんと本音を言えばよかった」と言葉を返したそうです。現在は同居していたときよりも良好な関係を築けているといいます。
前出の調査によると、老親との同居に対する意識として「年をとった親は子ども夫婦と一緒に暮らすべきだ」に賛成する割合は、2008年の50.8%から2022年には26.5%へと大きく低下しています。また、「年老いた親の介護は家族が担うべきだ」という考え方に賛成する割合も、2022年調査では38.9%にとどまっています。
田中さん家族のように、愛情や義務感から同居や家族だけでのケアを開始しても、限界を迎える前に「別居」と「専門サービス(高齢者住宅等)」を選択し、お互いにとって心地よい距離感を取り戻すことは、前向きな決断といえます。