帰省した孫に手渡したお小遣いを拒否され、言葉を失ってしまった70代の夫婦。その背景には、デジタル世代とシニア世代における“格差”があったのです。変わりゆく時代の中で、世代を超えて気持ちを届け合うにはどうすべきか、考えていきます。
「おじいちゃん、このお金いらない」…〈年金月25万円〉70代夫婦、帰省した孫が「1万円入りポチ袋」をその場で突き返した「驚きの理由」 ※写真はイメージです/PIXTA

「ポチ袋に現金を入れて渡す」のは時代遅れ?

正一さんはスマートフォンを持っていても、通話と写真撮影しか使っていませんでした。キャッシュレス決済アプリは入っているものの、「登録した覚えがないから怖い」と放置したままです。

 

「現金のほうが、ちゃんと渡した感じがする」――その感覚は、スマホになじめない世代であれば共感するところでしょう。

 

翌朝、娘がそっと正一さんに声をかけました。

 

「翔太、お父さんたちを傷つけるつもりはなかったと思う。学校でも“現金を持ち歩かないほうが安全”って言われてるみたい」

 

銀行で新札を用意し、ポチ袋を選び、名前を書いて渡す。その一連の行為には、「会えたことがうれしい」という感情が込められていました。しかし、いまの子どもたちには、“気持ちを込めて準備する”という発想自体ないのかもしれません。必要な金額が、必要なタイミングで届くからです。

 

総務省『家計調査 家計収支編』によると、お盆玉を含むであろう8月の贈与金は、2005年が1万4,587円、2016年が1万312円、2025年が6,423円と、この20年ほどで半減。もちろん少子化や帰省スタイルの変化などの影響もあるでしょうが、「ポチ袋にお金を入れて渡す」という機会が減ったことも一因といえるでしょう。

 

帰省最終日。翔太さんが祖父の隣に座りました。

 

「おじいちゃん、この前はごめんね。もしよかったら、送金のやり方教えるよ」

 

どうやら娘から注意されたことが心に引っかかっていたようです。正一さんは半信半疑でスマホを差し出しました。アプリを開き、本人確認を済ませ、銀行口座を登録する。30分ほどかかりました。

 

「じゃあ、試しに1円送ってみるね」

 

画面に「送金完了」と表示されると、正一さんは思わず笑いました。

 

「本当に届いたのか?」

「ほら、通知きたでしょ」

 

そのあと、正一さんは改めて1万円を送金しました。

 

「ありがとう。今度、友だちと映画行くときに使うね」

 

翔太さんはそう言って頭を下げました。現金を返したときより、ずっと自然な表情でした。娘一家が帰ったあと、和子さんがテーブルの上の空になったポチ袋を片づけながら言いました。

 

「来年は、最初から“現金と送金、どちらがいいか”聞けばいいかもね」

「でも、もらえるとわかっていながら、『もらえるかな』『もらえないかな』とワクワクするのが楽しいのだが……時代は変わったな」

 

シニア世代にとって本当に難しいのは、キャッシュレスの操作ではなく、「自分たちの当たり前が、孫の世代では当たり前ではない」と受け入れることなのかもしれません。