お金さえあれば老後は安泰だと、誰もが思うもの。一方で、十分な資産を抱えながらも、老後、孤立に陥るケースも珍しくありません。ある親子の事例から、経済的余裕が招く老後の意外な落とし穴について考えます。
「お金は1円も渡さない!」〈資産7,000万円〉〈年金月17万円〉78歳父。長男に「死ぬまでお金を抱えていろ」と吐き捨てられ…病床に広がる静寂 ※写真はイメージです/PIXTA

お金に執着する78歳父

「俺が稼いだ金だ。子どもに1円も渡すつもりはない」

 

東京都内で1人暮らしをする田島博さん(78歳・仮名)。

 

住まいは区内の一軒家。預貯金や投資信託などの金融資産は約7,000万円ありました。

 

十分な資産のある田島さんですが、現役時代は普通の会社員だったとのこと。ただ、お金に対する執着は人一倍強かったといいます。

 

そう語る一方で、妻や長男が家計や将来について意見を述べることは許しませんでした。

 

妻が家計について意見を述べると、「金を稼いできたのは誰だ」と怒鳴る。

長男が結婚して住宅購入の相談をした際も、援助を求められたわけではないにもかかわらず、「当てにするなよ」と釘を刺す。

 

長男夫婦に子どもが生まれてからも、その態度は変わりませんでした。

 

「金銭的な援助はしない。それはお前ら親の役目だ」

 

そう繰り返していたといいます。

 

妻は長年、その高圧的な態度に耐えてきました。しかし田島さんが68歳のとき、離婚に至ります。離婚にあたって、田島さんは財産分与として妻に2,000万円を渡すことになりました。

 

「俺が働いて稼いだ金なのに、どうして2,000万円も持っていかれるんだ」

 

田島さんは最後まで不満を口にしていたといいます。それでも離婚は成立しました。妻は家を出て、夫婦は別々の生活を始めました。

 

それから10年。田島さんの手元には、なお約7,000万円の金融資産が残っています。離婚後、田島さんは広い自宅に1人で住み続け、長男一家とは、当初は年に数回会っています。ただ、会うたびに田島さんは金の話をしたといいます。

 

「教育費は大丈夫なのか」

「そんなに習い事をさせて、無駄遣いじゃないのか」

 

頼まれてもいないことまで口を出す一方、自分の資産については、こう言いました。

 

「俺の金は俺が使う。相続を期待するな」

 

長男も次第に父親と距離を置くようになりました。

 

内閣府『高齢社会対策総合調査(第10回)』によると、日本の高齢者で近所の人と「病気の時に助け合う」関係にある人はわずか3.5%にとどまります。さらに「近所の人とのつきあいがない」と答えた人は19.2%にのぼり、欧米に比べ孤立しやすい傾向にあります。

 

また、日常生活のちょっとした困りごとで家族以外に「頼れる人はいない」とする人が16.5%、「親しい友人はいない」と回答した人が37.9%に達しているのが現状です。

 

年を重ねれば、家族以外との関係だけで生活を支えることは簡単ではありません。まして、家族との関係まで悪化していれば、困ったときに頼れる相手はさらに限られます。

 

田島さんは、そのことを深く考えていませんでした。

 

「金があれば何とかなる」

 

それが口癖でした。