お盆の帰省ラッシュ。実家で息を潜め、家族のLINEすら無視し続ける女性がいます。「実家暮らし=楽をしている」という周囲からの誤解や偏見の裏で、生活費を支え親の面倒を担う単身者たちの苦悩。中高年の同居未婚者が増えるなか、私たちが直視すべき家族のあり方と将来のリスクを考えます。
「LINEは絶対既読にしません…」〈年収280万円・48歳独身妹〉、お盆帰省した兄家族の声が聞こえても、実家の2階で息を潜めるワケ ※写真はイメージです/PIXTA

将来の介護要員は既定路線

翌朝、母は朝食の準備で台所に立っていました。兄家族はまだ寝ています。「洗濯物だけお願いできる?」と頼まれ、由美さんは4人分のシーツとタオルを洗い、干します。昼食の片付けも手伝い、午後には次男を公園へ連れて行くよう頼まれました。

 

「ちょっと見ててくれる? 久しぶりに2人で買い物したいから」

 

兄にそう言われ断れませんでした。一方で、夕方になると兄は父と酒を飲みながらこう言います。

 

「由美は家にいる時間が長いから、こういう時は助かるよな」

 

「いつまでいるのか聞いてきたかと思えば、実家にいて助かると言う。本当に嫌なんです」と憤りを隠せません。しかも、平日は朝8時に家を出て、帰宅は午後6時半。食費や光熱費も負担しています。実家に住んでいるというだけで「余裕がある人」と見なされるのが、本当に嫌だといいます。

 

総務省の国勢調査では、生涯未婚率が上昇する一方、親と同居する中高年の未婚者も増えています。由美さんのように、経済的理由や親の生活支援を背景に同居を続けるケースは少なくありません。

 

帰省3日目の夜、由美さんは再び自室に戻っていました。階下からは、兄夫婦と両親の話し声が聞こえてきます。

 

兄嫁「将来的には、この家どうするの?」

母「由美がいるから、当面は大丈夫だと思うけど」

兄「でも、ずっとこのままってわけにもいかない。介護が必要になったら施設も考えないと」

兄嫁「由美ちゃんが面倒を見てくれるんじゃない?」

 

「同居している家族」であると同時に「将来の介護要員」。それが逃れようのない事実でした。

 

翌朝、兄家族が帰る準備をしている間、由美さんは2階から降りませんでした。玄関で子どもたちが「おばちゃん、またね」と叫ぶ声だけが聞こえました。「またね」と、形式的な挨拶だけで済ませます。

 

車が出発したあと、母が2階に来て「ごめんね。悪気はないのよ」と言いました。

 

由美さんは家計簿を見直し、実家への負担額と自分の貯蓄を整理しました。現在の貯蓄は約620万円。親の介護が始まれば、仕事を続けながらどこまで対応できるのか。

 

前出の調査によると、要介護者等と同居している主な介護者の続柄のうち、「子」が担う割合は18.2%に上り、「配偶者(22.5%)」に次いで多くなっています。由美さんのように、親と同居する未婚の子が、なし崩し的に「将来の介護の主たる担い手」として周囲から期待されるケースは決して珍しくありません。しかし、一人で仕事と介護を両立することは極めて困難であり、身体的・精神的な負担が同居する子にばかり集中してしまう危険性があります。