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憂鬱な兄家族の帰省
「お盆の時期、母からのLINEは絶対に既読にしません」
神奈川県の郊外の実家で両親と暮らす佐伯由美さん(48歳・仮名)。地元の医療機関で事務として働き、年収は約280万円。手取りは月18万円前後です。実家には毎月6万円を入れ、固定資産税や火災保険の一部として年15万円を負担しています。
父(79歳)は年金月14万円、母(76歳)は月7万円ほど。築42年の実家の維持費を考えると、由美さんの負担は決して小さくありません。それでも、親戚からは「実家にいるからお金が貯まるでしょう」と言われます。
お盆の時期に母からのLINEを既読スルーする真意、それは兄家族の帰省があるからです。昨年も母から「そろそろ到着すると思う」、さらに「準備ができたら下に来て」というメッセージが続きました。既読がつけば了承したことになる。「ささやかな抵抗みたいなもの」と由美さんは言います。
午後3時過ぎ。車のドアが閉まる音と、子どもたちの走る足音が聞こえてきました。
「おばあちゃーん!」
その声が憂鬱な日々の始まりだといいます。兄の大輔さん(51歳)は、妻と小学4年生の長男、保育園年長の次男を連れて帰省してきました。年に2回、正月とお盆に3泊ほど滞在します。たとえ兄家族が到着しても、出迎えたりはしません。自室で忙しくしている体で、息を潜める。それがいつものことです。
夕食の時間になり、母が2階に呼びに来たのでリビングに降りていくと、すでに食卓は埋まっていました。兄夫婦の前には刺身や寿司が並び、子どもたちはジュースを飲んでいます。由美さんの席だけが空いていました。
最初は、子どもの学校や旅行の話で盛り上がっていましたが、ひと通り話が終わると、自然と話題は由美さんへ向きます。
「由美ちゃん、仕事は忙しいの?」
兄嫁が笑顔で尋ねます。「まあ、普通かな」と無難に返すと、「医療事務って安定しているからいいわよね。あとはいい人を見つけるだけね」と返ってきます。その瞬間、母が慌てて話題を変えようとしました。しかし兄が続けます。
「そういえば、いつまで実家にいるの? 父さんたちも年だし、由美がいて助かってるんだろうけどさ。将来のことも考えないと」
厚生労働省『2025年(令和7年)国民生活基礎調査』によると、65歳以上の高齢者がいる世帯のうち、「親と未婚の子のみの世帯」は554.9万世帯に上り、全体の20.1%を占めています。高齢の親と未婚の子の同居は、現在では決して珍しい家族の形ではありません。
由美さんのように、同居する子が生活費や実家の維持費を負担し、年金生活の親を実質的に支えているケースも少なくありません。そうなると、実家を出たくても出られない、という状況になるでしょう。