(※写真はイメージです/PIXTA)
理想だったFIRE生活のはずが…
「もう絶対に働かない!」
都内IT企業を退職した小林直人さん(45歳・仮名)は、22年間勤めた会社を後にしながら、ようやく自由を手に入れたと感じていました。
30代前半から新NISAの前身制度や特定口座を活用し、世界株式インデックスファンドや米国ETFへの積立投資を続けてきました。管理職として年収は1,300万円前後。毎月30万円以上を投資に回し、退職時の金融資産は約1億6,000万円になっていました。
金融経済教育推進機構の『家計の金融行動に関する世論調査2025年(二人以上世帯調査)』によると、40代(金融資産保有世帯)の金融資産保有額は平均1,840万円、中央値は828万円です。また、同調査で小林さんと同じ「年収1,200万円以上」の層を見ても、平均は6,187万円、中央値は3,500万円にとどまります。
若いうちからの高額な積立投資と、その運用収益によって築き上げられた資産は、同世代や同収入層の中でも群を抜いて突出した水準です。長年の計画的な蓄財が、念願のFIRE達成を確実なものにしたといえるでしょう。
資産は株式やETFを中心に運用しており、年間4%程度の運用収益を想定すると、年間約640万円の収益が見込めます。年間生活費は約450万円。家賃25万円の都心タワーマンションを含めても、生活費は運用収益の範囲内で賄える計算でした。
「これなら、もう一生働かなくても暮らせる」
いわゆる「4%ルール」を前提に、自身でも何度もシミュレーションを重ね、FIREを決断しました。
退職後の1か月は充実していました。朝は混雑を避けてジムへ行き、昼は気になっていた店でランチを食べる。夕方はラウンジで読書をし、夜は高層階から街の明かりを眺める生活です。時間にも、お金にも余裕がありました。
しかし、その生活は長く続きませんでした。
退職から2か月ほど経った頃です。ある日、小林さんはスマートフォンの歩数計を見て驚きました。1日の歩数は1,500歩。コンビニへ行っただけでした。さらに気になったのは、会話です。
「今日、一言もしゃべっていない」
会社員だった頃は、オンライン会議だけでも何時間も人と話していました。部下との面談や取引先との打ち合わせもありました。ところが退職すると、頻繁にスマートフォンが鳴ることはほとんどありません。退職直後は、元同僚から「今度飲みに行きましょう」という連絡も届いていました。しかし数か月が過ぎると、その頻度は目に見えて減っていきます。
久しぶりに食事へ行っても、話題は新しいプロジェクトや人事異動、組織改編ばかりです。「もう会社の話は分からないでしょう」――冗談交じりにそう言われた瞬間、自分は“外側の人間”になったのだと実感しました。
小林さんは45歳でしたが、仕事を辞めたことで、人との接点を一度に失ってしまったのです。