(※写真はイメージです/PIXTA)
住宅ローンを完済した直後の決断
「ローンを払い終わった瞬間は、肩の荷が下りました。でも、その1年後に売却を決めたんです」
神奈川県内に住む佐藤和夫さん(65歳・仮名)。妻の美智子さん(65歳・仮名)と2人暮らし。会社員として38年間働き、60歳で定年退職しました。現在は再雇用も終え、夫婦の収入は和夫さんの老齢年金18万円と、美智子さんの年金7万円を合わせた計25万円です。
35歳のときに購入した4LDKの庭付き戸建ては、土地約55坪、建物約36坪。購入価格は4,280万円。頭金500万円を入れ、残りを35年ローンで借り入れました。返済額は月15万円弱。教育費が重なった時期は家計が厳しく、車を買い替えるタイミングを遅らせたこともあります。
そして、ついに最後の返済日を迎えました。通帳にはいつも通りの「住宅ローン返済」の文字が並んでいましたが、その引き落としが“最後の1回”でした。夫婦はその日の夜、近所の店でささやかな食事をして、35年の返済生活に区切りをつけたといいます。
ところが、その数ヵ月後から和夫さんは別のことを考え始めました。
「この家をいつ売るか」
きっかけは、78歳で亡くなった実父の介護でした。実家も同じような戸建てでした。父は2階建ての家を「まだ大丈夫」と言って住み続けましたが、70代半ばから階段の上り下りがつらくなり、1階の和室で生活するようになりました。浴室には手すりがなく、冬場は寒い。庭の草取りもできなくなり、近所に頼むようになりました。
「このとき、戸建ての維持は大変だと思いました。元々家族6人のことを考えて建てた家でしたが、私たちが独立したあとは、夫婦2人で広い家に住んでいた。『この家は広すぎるな……』という愚痴も聞いていましたが、年を取ると引っ越しをする気力もなくなったみたいです」
マイホームとはいえ、不平不満を言いながら住み続けることは幸せなのか――疑問を感じるようになったといいます。
和夫さん自身も、体の変化を感じていました。65歳になった頃から、脚立に上がっての雨どい掃除が怖くなりました。庭木は年2回の剪定が必要です。植木屋に頼むと1回4万5,000円。固定資産税と都市計画税で年間14万2,000円。築30年を超え、外壁塗装や屋根の補修も今後10年で200万円近くかかる見込みでした。月平均にすると、税金と修繕積立を合わせて約3万円。ローン返済は終わっても、家を維持する費用は消えません。
総務省『家計調査 家計収支編 2025年平均』によると、2人以上世帯・持ち家における「設備修繕・維持」は月1万1,978円(年約14.3万円)。さらに固定資産税や火災保険料なども含めると、持ち家の維持費は年間20万〜50万円程度を見込むケースが一般的とされています。
「この家、掃除するだけの部屋が多いな」
長男は大阪、長女は千葉で家庭を持っています。帰省しても年に1〜2回。泊まっても1泊です。一方で、売却には強い抵抗感もありました。
「30年かけて手に入れた家です。完済したばかりなのに手放すなんて、正直、もったいないと思いました」
しかしその反面、我慢し続けることに疑問も感じていました。
「ただ掃除するだけの部屋、草むしりをするだけの広い庭……ここに住み続ける意味はあるのだろうか?」