仕事と介護の両立に悩み、キャリアを手放す「介護離職」。良かれと思った家族での在宅介護が、結果として生活や人生設計を大きく狂わせてしまう実態があります。ある43歳女性の5年間にわたる壮絶な経験から、在宅介護の限界と、キャリアを守りながら家族を支えるための「正しい選択」を考えます。
目覚めるとお義母さんはいませんでした…「年収700万円」大手管理職だった43歳女性。介護離職から5年、平穏な朝に涙したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

義母がホームに入居した翌日、静かな朝の涙

介護生活は5年目を迎えました。義母は食事を拒む日が増え、服薬も嫌がるようになります。

 

「私は邪魔なんでしょう」

 

そう言われるたび、美咲さんは返す言葉を失いました。一方で大輔さんも疲れていました。休日は介護に追われ、夫婦で外出する時間はほとんどありません。ある日、美咲さんは感情を抑えきれませんでした。

 

「もう限界。これ以上、お義母さんと一緒にいられない」

 

地域包括支援センターやケアマネジャーと何度も話し合い、施設入居を決断します。義母の年金は月約16万円、預貯金は約1,400万円。介護付き有料老人ホームの月額利用料は約27万円で、不足分は義母自身の預貯金から支払う計画を立てました。

 

入居当日、義母は穏やかな表情でした。職員に部屋を案内されるときもニコニコしています。どこか遊びに行くとでも思っているのでしょうか。入居をかたくなに嫌がるケースもあると聞いていただけに、スムーズに事が進んだことに安心したといいます。

 

翌朝。5年ぶりに目覚まし時計が鳴るまで眠れました。家の中は静かでした。さまざまな感情が押し寄せます。

 

「介護が終わってホッとした」

「お義母さんを施設に任せた罪悪感もある」

「最初から施設という選択をしたほうがよかったのかもしれない」

 

現在、美咲さんは再就職活動を続けています。提示される年収は450万〜600万円が中心です。5年間のブランクは、想像以上に大きな壁でした。

 

内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、家族の介護や看護を理由とした離職者数は1年間で約10.6万人に上ります。注目すべきはその男女比で、女性の離職者数は約8万人に達し、全体の75.3%を占めているのです。


「女性が介護を担うべき」という価値観は薄れつつあるものの、現実には未だ女性に負担が大きく偏っています。介護離職は深刻なキャリアのブランクを生み、その後の収入減に直結します。良かれと思った「家族での介護」が、結果的に女性の人生設計を大きく狂わせてしまう残酷な実態がデータにも表れています。

 

「私たちの場合は恵まれています。子どももいないので、夫の収入だけで何とかなる。子どもがいたら、家計は破綻していました」

 

厚生労働省は地域包括支援センターや介護サービスの活用を呼びかけています。しかし実際には、「まだ家族だけで頑張れる」と抱え込み、仕事や家庭生活まで失いかけてから相談するケースも少なくありません。

 

美咲さん夫婦も、「最後までみることができないのなら、もっと早く施設という選択肢を考えてよかったのかもしれない」と話します。