(※写真はイメージです/PIXTA)
義母がホームに入居した翌日、静かな朝の涙
介護生活は5年目を迎えました。義母は食事を拒む日が増え、服薬も嫌がるようになります。
「私は邪魔なんでしょう」
そう言われるたび、美咲さんは返す言葉を失いました。一方で大輔さんも疲れていました。休日は介護に追われ、夫婦で外出する時間はほとんどありません。ある日、美咲さんは感情を抑えきれませんでした。
「もう限界。これ以上、お義母さんと一緒にいられない」
地域包括支援センターやケアマネジャーと何度も話し合い、施設入居を決断します。義母の年金は月約16万円、預貯金は約1,400万円。介護付き有料老人ホームの月額利用料は約27万円で、不足分は義母自身の預貯金から支払う計画を立てました。
入居当日、義母は穏やかな表情でした。職員に部屋を案内されるときもニコニコしています。どこか遊びに行くとでも思っているのでしょうか。入居をかたくなに嫌がるケースもあると聞いていただけに、スムーズに事が進んだことに安心したといいます。
翌朝。5年ぶりに目覚まし時計が鳴るまで眠れました。家の中は静かでした。さまざまな感情が押し寄せます。
「介護が終わってホッとした」
「お義母さんを施設に任せた罪悪感もある」
「最初から施設という選択をしたほうがよかったのかもしれない」
現在、美咲さんは再就職活動を続けています。提示される年収は450万〜600万円が中心です。5年間のブランクは、想像以上に大きな壁でした。
内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、家族の介護や看護を理由とした離職者数は1年間で約10.6万人に上ります。注目すべきはその男女比で、女性の離職者数は約8万人に達し、全体の75.3%を占めているのです。
「女性が介護を担うべき」という価値観は薄れつつあるものの、現実には未だ女性に負担が大きく偏っています。介護離職は深刻なキャリアのブランクを生み、その後の収入減に直結します。良かれと思った「家族での介護」が、結果的に女性の人生設計を大きく狂わせてしまう残酷な実態がデータにも表れています。
「私たちの場合は恵まれています。子どももいないので、夫の収入だけで何とかなる。子どもがいたら、家計は破綻していました」
厚生労働省は地域包括支援センターや介護サービスの活用を呼びかけています。しかし実際には、「まだ家族だけで頑張れる」と抱え込み、仕事や家庭生活まで失いかけてから相談するケースも少なくありません。
美咲さん夫婦も、「最後までみることができないのなら、もっと早く施設という選択肢を考えてよかったのかもしれない」と話します。