(※写真はイメージです/PIXTA)
夫の療養で変わった日常
東京都内に暮らすユカさん(48歳・仮名)は、企業で管理職として働いています。年収は約900万円。夫のマサトさん(52歳・仮名)も会社員で、年収は約700万円です。子どもはいません。
結婚して20年近く。共働きで、お互い忙しく働きながらも、休日には外食や旅行を楽しんでいました。そんな生活が変わったのは、マサトさんが体調を崩したことがきっかけです。
検査や治療を経て、数ヵ月間、自宅療養することになりました。幸い命にかかわる状態ではなく、回復も見込まれていました。
「もちろん心配でした。病院にも付き添いましたし、食事や薬のこともできる限りやりました」
ところが、自宅療養が始まってしばらくすると、別の問題が起こり始めます。
「今日何時に帰る?」仕事中も止まらない連絡
ユカさんが出社すると、午前中から夫のLINEが届きます。
「今日、何時に帰ってくる?」
「お昼、何を食べればいい?」
「薬って食後だったっけ?」
最初は、その都度返信していました。
しかし、やがて会議中にもスマートフォンが何度も震えるようになります。返信できないでいると、「LINE見た?」。さらに着信まで。
「何かあったのかと思って、会議を抜けて折り返したこともありました」
ところが、
「別に。ちょっと話したかっただけ」
と言われることもありました。
夫は療養中で心細いのだろう。そう考え、ユカさんは苛立ちを飲み込みます。
「具合が悪い人に『連絡しないで』と言ったら、自分がすごく冷たい人間みたいな気がしてしまって」
「私は仕事が好きなんです」
マサトさんの休職によって、世帯収入は減りました。
一定の要件を満たす会社員などは、病気やケガで働けなくなった場合に「傷病手当金」を受け取れることがあります。ただ、ユカさんが仕事を続けたい理由は、家計だけではありませんでした。
「私の収入だけでも生活はできます。子どももいませんから。でも、それ以上に私は仕事が好きなんです」
長年積み重ねてきたキャリアがあり、管理職として責任のある仕事を任されることにも、やりがいを感じていました。
ところがある日、帰宅が遅くなったユカさんに、夫は言いました。
「俺がこんな状態なのに、仕事のほうが大事なの?」
「仕事と夫を比べているわけじゃないんです。でも、夫が病気になった瞬間に、私の仕事だけが『減らして当然のもの』になるのかなと思いました」
そして、決定的な出来事が起こります。
重要な会議中、夫から何度も電話がかかってきました。
休憩時間に慌てて折り返すと、
「別に。ちょっと話したかっただけ」
ユカさんは思わず、
「急ぎじゃないなら、仕事中に何回も電話しないでよ」
と言いました。
すると夫は、「冷たくない? 俺のこと、心配じゃないの?」
その瞬間、ユカさんのなかで何かが切れました。
「心配してないわけないじゃん!」
病院にも付き添った。食事も用意した。仕事中にも連絡を返してきた。
それでも夫にとっては「足りない」。
「一気に疲れてしまったんです」