(※写真はイメージです/PIXTA)
本家の長男に嫁いだ日から
しかし、結婚後、その言葉の意味を少しずつ理解するようになります。
盆と正月の帰省。
親族が集まる法事。
本家で行われる食事会。
連絡を取りまとめるのは、いつも自然と真由美さんの役割になりました。
「お嫁さん同士で相談しておいて」
「お義母さんを手伝ってあげて」
誰かが命令したわけではありません。しかし、断ると空気が変わることは分かりました。和彦さんは、そんな妻を見て、「いつもありがとう。母さんも助かっていると思う」と感謝を忘れません。だからこそ、真由美さんは言えなかったのです。
「私はもう限界」
決定的だったのは、結婚12年目の出来事でした。真由美さんの父親が病気になり、入退院を繰り返していた時期です。本当なら、自分の父のために時間を使いたいところでした。しかし、その年は佐藤家の法事がありました。親族30人ほどが集まる予定。義母から電話がありました。
「悪いけど、今年も準備をお願いできる?」
真由美さんは迷いましたが、法事の準備を優先しました。その後、病院を訪れると、「あなた、無理していない?」と母。その言葉で初めて、自分が何を我慢してきたのかに気づいたそうです。夫の家族を大切にすることは悪いことではありませんが、自分の親や自分自身を後回しにしてまで続けるものなのか――。
国立社会保障・人口問題研究所『第16回出生動向基本調査』によると、結婚している女性のうち「結婚したら、家庭のためには自分の個性や生き方を半分犠牲にするのは当然だ」という考えに「反対」する割合は65.1%に達しています。
さらに、この「結婚に犠牲は当然」という旧来的な価値観を支持する割合は、前回の調査から15ポイント以上も大きく低下しました。真由美さんのように、旧来の「家」や「嫁」といった役割に縛られ、自分自身や実親を後回しにすることに疑問や限界を感じる女性は増えており、個人の生き方をより尊重する方向へと現代の家族観が大きく変化している実態がうかがえます。
現在、義父は78歳、義母は76歳です。まだ自立して暮らしていますが、将来的には介護や生活支援の問題が出てくる可能性があります。和彦さんは言います。
「親のことは俺たちが考えないと」
その言葉に、真由美さんも反対はしません。夫としては当然の考えだと思います。ただ、その「俺たち」の中に当たり前のように真由美さんはいます。
厚生労働省『2025年(令和7年)国民生活基礎調査』によると、要介護者等のいる世帯において「同居の主な介護者」の続柄をみると、「配偶者」が22.5%、「子」が18.2%であるのに対し、「子の配偶者」は4.2%にとどまっています。また、ヘルパーなどの「事業者」も16.0%を占めています。
かつては「長男の嫁」が義父母の介護を全面的に担うのが当然とされた時代もありましたが、現在では実子や配偶者が中心となり、必要に応じて外部サービスを頼る形へと大きく変化しています。
「もう、佐藤家の嫁としていたくない」
介護が現実化する前に、思いを伝えられるか。そもそも伝えるべきなのか。まだ答えは出ていないようです。