内閣府が公表した『孤独・孤立の実態把握に関する全国調査』では、「孤独感がある」と回答した人は約4割に上りました。孤独は一人暮らしだけの問題ではなく、家族と同居していても感じる人が少なくありません。老後不安というと経済面が注目されがちですが、生活が安定していても夫婦関係が静かに変化していくケースがあります。そんな社会課題に直面している事例を通して、その実態をみていきます。
お金の心配はないのだが…〈夫婦で年金月25万円〉築50年・分譲団地暮らしの67歳夫。静まり返った食卓、妻との会話もない毎日 ※写真はイメージです/PIXTA

仕事だけの現役時代が終わり…定年後に必要なもの

内閣府『2025年 人々のつながりに関する基礎調査結果』によると、「同居人がいる」人でも孤独感が「しばしばある・常にある」「時々ある」と答えた割合は合わせて16.1%に上ります。また、「気軽に話せる相手がいない」と答えた人のうち、孤独感が「しばしばある・常にある」割合は25.0%と高く、相手がいる人(2.5%)の10倍に達します。

 

佐々木さん夫婦のように、同じ空間にいても「気軽に話せる関係」を築けていない場合、孤独感は深まりやすくなります。特に、現役時代を仕事中心で過ごした人は、退職によって社会とのつながりを失いやすく、家庭内にも居場所を見出せずに孤立するケースが少なくありません。

 

同調査において、地域活動や趣味などに「特に参加していない」人は、「参加している」人に比べて強い孤独を感じる割合が高い(8.9%と3.8%)ことも示されています。家庭外のつながりの喪失も、定年後の孤独に大きく影響しているといえます。

 

最近、洋一さんは自治体の歴史講座へ通い始めました。月2回だけですが、顔見知りができました。帰宅後、「今日はこんな話を聞いた」と美智子さんへ話すときもあります。美智子さんは「そうなんだ」と短く返します。以前なら、その一言さえありませんでした。

 

劇的な変化ではありませんし、夫婦関係が急に変わることもないでしょう。ただ、「これが大きな一歩」だと洋一さんは話します。

 

老後の安心は、十分な資産だけで得られるものではありません。大切なのは、家族や社会との「つながり」を築き直すことです。劇的な変化ではなくても、小さな会話を重ねていくこと。そのささやかな一歩の積み重ねこそが、孤独を和らげ、これからの長い人生を豊かにしていく鍵となりそうです。