近年、高齢者の自己破産やギャンブルによる多重債務の割合が過去最多を記録し、深刻な社会問題となっています。一見安泰に思える老後でも、孤独や環境の変化から誰もが直面し得る「落とし穴」とは何でしょうか。周囲から信頼されていた元教師の女性の事例を通し、現代の老後が抱える見えないリスクに迫ります。
恥ずかしくて、恥ずかしくて…〈年金月20万円〉〈持ち家あり〉の72歳元教師、息子に「助けて」と言えなかった老後の落とし穴 (※写真はイメージです/PIXTA)

息子に「助けて」と言えなかった本当の理由

和子さんには、遠方で暮らす一人息子がいます。息子は家庭を持ち、仕事や子育てに忙しい毎日を送っています。だからこそ、和子さんは自分の苦しい状況を伝えることができませんでした。

 

「迷惑をかけたくない」

「親として情けない姿を見せたくない」

 

そんな思いが、相談することへの大きな壁になっていたのです。教師として長年、人を支える側として生きてきた和子さんにとって、「誰かに助けてもらう」という行為は容易ではありませんでした。周囲から尊敬されてきた人ほど、自身の失敗や弱さを見せることに強い抵抗を感じるケースは少なくありません。

 

実は、和子さんのような状況は決して珍しいことではありません。日本弁護士連合会『2023年破産事件及び個人再生事件記録調査』によると、破産債務者に占める「70歳代以上」の割合は11.84%に達し、1997年の調査以降で最大となりました。また、多重債務に陥った原因として「ギャンブル」を挙げる人も9.89%に増加し、同様に過去最大値を記録しています。

 

和子さんのように、伴侶との死別を機に一人暮らしとなり(単身者の破産割合も43.63%と過去最大)、孤独を埋めるためギャンブルにのめり込む高齢者は、現代社会の縮図とも言えます。真面目に生きてきた人ほど周囲に弱みを見せられず、法的手続きに至るまで事態を深刻化させてしまうのが実態です。

 

こうしたギャンブルに起因する問題は根深く存在します。厚生労働省『令和5年度 ギャンブル障害及びギャンブル関連問題実態調査』によると、ギャンブル等に関連する問題を抱える本人やその家族が、問題に気づいてから医療機関や相談機関につながるまで、一定の期間を要することが示されています。

 

ここで重要なのは、「本人の努力不足」や「自業自得」と片付けてしまわないことです。お金の問題は、単なる金額の過多だけでなく、孤独や心の孤立と深く関係しています。特に高齢者の場合、「家族に心配をかけたくない」という思いから、問題を一人で抱え込んでしまいがちです。

 

和子さんのケースは、決して特殊な話ではありません。十分な年金がある、自宅がある、過去に安定した仕事をしていた。そうした条件が揃っていても、人生の大きな転機や環境の変化をきっかけに、家計が崩壊する可能性は誰にでもあります。

 

大切なのは、問題が深刻化して取り返しのつかないことになる前に、誰かへ SOS を出すことです。家族はもちろん、自治体の相談窓口や専門機関など、手を差し伸べてくれる場所は必ずあります。