まさか自分の家庭に「大黒柱の急死」という悲劇が訪れるとは――誰も想像していないでしょう。しかし、万が一の事態が起きたとき、残された家族を待っているのは、公的保障の「想像以上の厳しさ」という現実です。ある日突然、愛する夫を失い、さらに経済的な崖っぷちに立たされたひとりのパート主婦と、その娘の葛藤を通じて、「万が一のリアル」を考えます。
50歳で急逝した夫の遺族年金「月14万円」に絶句した48歳パート妻。大学進学を控える高2娘が放った〈想定外のひと言〉に涙した理由

高2の娘「お母さん、私、働く」

加奈子さんの不安を誰よりも敏感に察知していたのは、娘の結衣さんでした。結衣さんは幼い頃から夢だった「建築デザイン」を学ぶため、難関私立大学の美大進学を目指していました。毎日夜遅くまで塾に通い、デッサンの練習に励む結衣さんの姿を見るたび、加奈子さんは「お金のせいでこの子の未来を潰したくない」と胸を締め付けられていました。


そんなある夜、加奈子さんがリビングのテーブルで、暗い顔をして家計簿と通帳を睨み合わせていたときのことです。背後に静かに立っていた結衣さんが、ぽつりと言いました。

 

「お母さん。私、大学行くのやめるね」

 

驚いて顔を上げた加奈子さんに、結衣さんは健気にも引きつった笑顔を作りながら言葉を続けました。

 

「高校を出たら、すぐ就職して働く。私、全然平気だから」

 

その瞬間、加奈子さんの目から涙が決壊するように溢れ出しました。17歳の娘が母親を助けるために自分の夢を捨てようとしている――「親として、本当に情けなかった」と、当時を振り返ります。

 

高校から大学進学にかかる教育費は、親の世代が想像する以上に膨れ上がっています。

 

文部科学省『令和5年度子供の学習費調査』によると、公立高校(全日制)でも1年間の学習費総額は約59万7千円、私立高校では約117万9千円に上ります。さらに『私立大学等の令和7年度入学者に係る学生納付金等調査結果』によると、私立大学における初年度学生納付金(授業料や入学料などの総計)は平均で約151万円に達します。

 

結衣さんのように私立大学への進学を目指す場合、高校の学習費に加え、大学初年度だけでまとまった数百万円の資金が必要です。手取り22万円の家計からこれら莫大な教育費を捻出することは困難であり、万一への備えの不足が、子どもの夢や未来を直接的に左右してしまうのが現実なのです。

 

それでも「絶対に娘を大学に行かせる」と心に誓い、情報収集を始めた加奈子さん。世の中には「大黒柱を失った家庭」をサポートするための公的・民間の制度がいくつも存在することを知りました。

 

もし、この記事を読んでいる方の中に、同じように突然の境遇の変化に苦しんでいる方がいるなら、以下の制度の存在をぜひ知ってほしいと思います。

 

■日本学生支援機構(JASSO)の給付型奨学金

世帯年収や資産の要件を満たせば、返済不要の「給付型奨学金」と、大学の「授業料・入学金の免除または減額」をセットで受けられる「高等教育の修学支援新制度」があります。ひとり親世帯になり、収入が激減した場合は、この対象になる可能性が高くなります。

 

■日本政策金融公庫「国の教育ローン」

公的な融資制度であり、民間銀行の教育ローンに比べて金利が低く抑えられています。さらに、「ひとり親家庭」であれば、金利の低減や保証料の優遇、返済期間の延長といった手厚い特例措置が受けられます。

 

■自治体のひとり親家庭支援

各市区町村では、ひとり親家庭を対象にした独自の給付型奨学金や、無利子で学資金を借り入れできる「母子父子寡婦福祉資金貸付金」などの制度を用意しています。


さらに加奈子さんは現在、パート先での勤務時間を増やしてもらうと同時に、将来的には社会保険に加入して正社員へステップアップできるよう、就職活動もスタートさせました。


「遺族年金が月14万円と聞いたときは絶望感しかありませんでしたが、調べればいろいろとサポートがある。何とかなるものですね」