近年、注目を集める「年金の繰下げ受給」。厚生労働省の統計でも繰下げを選択する人は増加傾向にあります。しかし、増額のメリットばかりに目を奪われると、思わぬ落とし穴にはまることも。貯金よりも繰下げが得だと決断した69歳男性の事例を通じ、見落としがちな注意点を見ていきます。
「年金の家族手当」とも呼ばれる加給年金
加給年金は、厚生年金の加入期間が原則20年以上ある人が65歳に達し、65歳未満の配偶者や一定年齢未満の子を扶養している場合に、老齢厚生年金へ上乗せして支給される給付です。「年金の家族手当」とも呼ばれます。
配偶者が対象の場合、2026年度は本体額に加え、受給権者の生年月日に応じた特別加算が上乗せされ、昭和18年4月2日以後生まれであれば年間約41万円が支給されます。一方で、配偶者が65歳になると加給年金は終了し、条件を満たせば配偶者側に「振替加算」が支給されます。老齢厚生年金を繰下げ受給している期間は加給年金自体が支給されない点が、見落とされやすいポイントです。
高橋さんが選択した「年金の繰下げ受給」は、「年金受取額が増額される」ことばかりが強調されますが、見落としがちな点は他にもあります。
まず増額されるのは老齢基礎年金と老齢厚生年金だけであり、関連する給付まで増えるわけではありません。さらに、繰下げを選択している間は、本来受け取れる年金を受け取らないため、その期間中に亡くなれば、受け取れなかった老齢年金は戻ってきません。「長生きするほど有利」という制度であることは理解しておく必要があります。
加えて、年金額が増えることで、将来的に所得税や住民税、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料などが増えるケースもあります。増額分がそのまま手取りになるとは限らず、家計全体で考えることが大切です。
「繰下げ受給を選んだこと自体を後悔していません。良い選択をしたと今でも思っています。ただ制度をきちんと理解したうえで選択をしたかった、という思いはありますね」