大手設備会社を定年退職し、老後資金にも余裕があるはずの60歳の男性。しかし、待っていたのは「家族のグループLINEに自分だけ入っていない」という冷酷な現実でした。国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、家庭内の決定権や独立した子どもとの交流において、父親の存在感の薄さが浮き彫りになっています。なぜ彼は、妻や娘たちから距離を置かれてしまったのでしょうか。その背景を見ていきます。
「家族のグループLINEに、俺は入っていないんだが…」退職金2,500万円・60歳定年夫、妻や娘から距離を置かれていた「納得の理由」 (※写真はイメージです/PIXTA)

定年後に思い知った家族との関係

社会人になると実家を出る機会が増え、連絡も母親経由になります。

 

やがて長女が家族LINEを作りました。最初は母娘3人だけ。孫が生まれると、そのグループが育児の相談や写真の共有場所になりました。父親を外そうと話し合ったわけではありません。「ただ、何となく――」だといいます。
定年から半年後。田中さんは初孫の「お食い初め」が終わっていたことを後から知ります。

 

「終わったって、どういうことだ」

 

長女へ電話すると、返事は一言だけでした。

 

「お母さんには言ってたよ」

「俺は家族じゃないのか」

 

その言葉に、長女は静かに答えました。

 

「家族だよ。むしろ、何でお母さんから聞いてないの?」

 

電話はそこで終わりました。田中さんは、その夜、妻に「俺は嫌われているのか?」と単刀直入に聞いたといいます。答えはNO。今回の件については「ただ忘れていた」とのことでした。

 

「私と子どもたちの会話に、あなたはいつもいなかったじゃない。それが当たり前だったから」

 

定年を境に仕事の時間が減り、家庭にいる時間が増えました。それに伴い、当たり前のように家族とのコミュニケーションも多くなるかと思っていましたが、そうではなかったようです。

 

前出の調査によると、遠方に住む親との会話を「ほとんどしない」と答えた割合は、既婚の娘(有配偶女性)において母親が6.0%であるのに対し、父親は11.1%に上ります。未婚 of 娘(単身未婚女性)ではさらに差が開き、母親の5.4%に対し父親は15.3%に達します。

 

このように、子どもが独立して実家を離れると、母親とは継続して連絡を取り合う一方で、父親とは自然と疎遠になりやすい傾向が統計からも窺えます。父親を意図的に排除したわけではなくとも、日常の些細なコミュニケーションの積み重ねの差が、定年後に「自分だけ家族の輪に入れない」という状況を生み出しているといえるでしょう。

 

「家族の中で、自分の存在感がなかったということですね。定年を機に、家族との関係も再構築していかないといけません」