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長女「生活は楽になったでしょ?」に反論できず
ある日の夕食後。孫たちが寝静まったあと、節子さんがぽつりと口を開きました。
「もう疲れたね」
昭さんも黙ってうなずきました。翌朝、美咲さんへ話を切り出しました。
「そろそろ家を探すことも考えたらどうかな」
返ってきたのは思いもよらない言葉でした。
「そんな簡単に言わないでよ。私が働かなきゃ、この子たちは育てられないの」
昭さんは静かに聞いていました。すると美咲さんは続けました。
「仕事を休めば評価は下がる。辞めれば生活できない。だからお願いしてるの。生活費を多めに渡しているから、生活も楽になったでしょ?」
その言葉に節子さんは声を失いました。美咲さんにも事情がありました。管理職として責任は重く、残業も多い。離婚後は教育費も住居費も一人で背負っています。だからこそ実家は生活を支える場所になっていました。一方で、その生活は昭さん夫婦の時間と体力によって完全に支えられていたのです。
「孫はかわいいです。でも四六時中となると、かわいいだけじゃありません。親じゃないから強く叱れない。でも親の代わりは求められる。その毎日なんです」
節子さんはそう話します。最近では、孫たちも何かあれば祖父母を頼るようになりました。
「おばあちゃん見て」
「おじいちゃん一緒に来て」
内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、65歳以上の者がいる世帯のうち、「三世代世帯」の数は令和6年時点で243万3,000世帯。昭和55年には全体の半数(50.1%)を占めていましたが、今や9.0%にまで激減し、三世代同居はすっかり少数派となりました。かつて当たり前だった三世代同居が減った現代において、親に子育てを丸抱えさせることは、高齢の親に想定以上の負担を強いる結果を招きます。生活費の補填という「お金のゆとり」と引き換えに、高齢期の大切な体力と時間を奪われる“見えない搾取”が、少数派となった三世代世帯に重くのしかかっているのです。
孫育てにまい進するなか、昭さんは朝起きるたびに腰へ湿布を貼るようになりました。そんな両親の限界を察したのか、「ごめんなさい。でも、もう少しここにいていいかな」と美咲さん。その後は民間の学童保育やベビーシッター、家事代行などの外部サービスも駆使するようになり、現在の佐藤さん夫婦の負担は大きく減ったといいます。