全国で増え続ける空き家問題。親から実家を相続しても、自分は都市部で暮らしており、住む予定もないというケースは珍しくありません。ところが、手放そうにも売れず、維持費だけが積み上がる現実があります。誰も住まない家が人生を縛る――そんな社会課題に直面した一人の男性の事例を通して、地方の空き家相続がもたらす見えにくい負担をみていきます。
「こんな家いるか!」45歳ひとり息子、撃沈…「父から相続した実家」がタダでも売れない現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

毎年50万円が消える

売れない以上、持ち続けるしかありません。

 

問題はここからでした。固定資産税は年間4万8,000円。数字だけを見ると大きな負担には見えません。しかし、本当に重かったのは別の費用でした。春から秋にかけて草刈りが必要になります。当初は自分で対応していました。

 

2カ月に1回、新潟へ向かいます。東京駅から新幹線を利用し、現地ではレンタカー。交通費は1回あたり約3万円。年6回で18万円です。

 

さらに庭木の剪定を業者へ依頼した年は8万円。雪で壊れた雨どいの修理に16万円。外壁の一部補修に11万円。不用品の処分費用として12万円――気付けば年間支出は50万円を超えていました。

 

「住んでもいない家に毎年50万円ですよ」

 

中村さんは苦笑します。しかも、それはお金だけの問題ではありません。休日が消えていったのです。土曜日の朝5時に家を出る。現地で草刈りや換気、清掃を行う。帰宅する頃には夜です。こうして一日が終わります。

 

土日の休みには、家庭の用事もあります。長男の部活動の試合。娘の発表会――そのたびに実家の管理が立ちはだかりました。「また新潟なの?」と、妻からチクリと言われることも増えました。中村さん自身も反論できません。家を放置するわけにはいきません。

 

実家の解体も検討しました。しかし見積額は約320万円。解体したからといって土地が売れる保証はありません。むしろ管理は続きます。雑草も生えます。固定資産税も発生します。不動産会社からはこんな説明も受けました。

 

「更地になっても需要は変わらないと思います」

 

中村さんは言います。

 

「父を恨んでいるわけじゃないんです。ただ、必ずしも『家』は資産にならないんだなと……身に染みて実感しているわけです」

 

今年のゴールデンウィークも家族旅行はありませんでした。恒例となった実家の片付けです。いっそのこと「家族旅行は新潟の実家へ」と提案したこともありますが、周囲に何もないところです。家族全員からNOを突き付けられました。納屋には父親が残した農機具や生活用品が山積みになっています。処分見積もりは約40万円。手を付けても終わりが見えません。

 

夕方、誰もいない居間で一人座っていたとき、中村さんはふと思いました。

 

「自分が今死んだら、この家は誰が引き受けるんだろう」