(※写真はイメージです/PIXTA)
ローン完済後に始まった節約生活
2024年、佐藤さんは住宅ローンを完済しました。本来なら家計が楽になるはずでした。しかし現実は違いました。
夫婦の年金収入は月26万円、手取り22.3万円ほど。会社員だった佐藤さんの年金月19万円と、妻の和子さん(66歳・仮名)の年金月7万円を合わせた金額です。そこから毎月出ていくお金を計算すると、気持ちが重くなるといいます。
管理費と修繕積立金で5万9,000円。固定資産税を月換算すると約2万円。光熱費は1万8,000円前後。通信費が1万2,000円。食費は4万円。医療費や保険料などを加えると、月の支出は23万円を超えます。年金だけでは足りるか、足りないかのボーダーライン。貯蓄を取り崩す月も多いといいます。
老後は海外旅行へ――そのような夢も、昨今の円安もあり諦めました。外食をするのも、月1回程度です。和子さんは見切り品を積極的に買うようになりました。
「節約も結構楽しいものよ」
そう言って笑いますが、その表情は複雑です。
ある日、給湯器が故障しました。交換費用は約28万円。翌年にはエアコン2台の交換で35万円近くかかりました。年金生活では重い負担です。
「ローンが終われば安心だと思っていました。まさか住み続けるためのお金で苦しくなるなんて」
「売ればいい」ができない現実
夫婦は一時、本気で売却を検討しました。不動産会社に査定を依頼すると、思いがけない金額を提示されました。購入時は5,800万円だった部屋です。現在の査定額は1億円を超えていました。
「買った時より高く売れますよ」
担当者はそう言ったといいます。それでも、佐藤さん夫妻は売却を決断できませんでした。理由は価格ではありません。年齢でした。
「今さら知らない街で暮らしたくないんです」
和子さんはそう話します。近所のスーパー、かかりつけの内科、顔なじみになった薬局の薬剤師、マンション内で会えば立ち話をする同世代の住民――20年近くかけて築いてきた生活があります。仮に売却しても、同じ中央区内で住み替えようとすれば住宅価格は大きく上昇しています。
郊外へ移れば費用は抑えられます。しかし、生活環境は大きく変わります。68歳になった今、その決断は簡単ではありません。
「若い頃なら引っ越していたと思います。でも、この歳になると知らない病院を探すだけでも気が重いんですよ」
内閣府の「高齢社会に関する意識調査」によると、住み替えの意向(将来的な検討を含む)を持つ人の割合は、60代前半の40.9%から、60代後半で35.7%、70代前半で31.3%と、加齢に伴い減少する傾向が明らかになっています。佐藤さんのように、年齢とともに住環境を変えるハードルは高くなるのです。
資産価値は上がった。売れば利益も出る。それでも住み続けるしかない。その一方で、管理費と修繕積立金は毎年のように見直されていきます。
「このマンション、高く売れるらしいんです。でも、だからといって安心できるわけじゃないんですよね」