(※写真はイメージです/PIXTA)
見覚えのない通帳
「夫婦なのに、こんなことがあるんだと思いました」
神奈川県に住む高橋恵子さん(65歳・仮名)。夫の高橋和夫さん(68歳・仮名)は8年前に定年退職し、現在は再雇用も終え、夫婦2人暮らしです。生活の基盤となるのは、和夫さん月19万円、恵子さん月7万円の年金収入。住宅ローンは完済済みです。預貯金は約2,100万円。たまに旅行に行くほかは、無駄遣いすることもなく、慎ましく暮らしていたといいます。
そんな夫婦の生活に異変が生じたのは、ある年の大掃除。押し入れの整理をしていた恵子さんは、古い書類ケースの奥から見慣れない通帳を見つけました。地方銀行の口座、残高は47万円。問題は取引履歴です。毎月25日前後になると、決まって4万円前後が引き出されていました。それが5年以上続き、累計額は240万円を超えていました。
「借金かもしれない。女性問題かもしれない。とにかく普通じゃないと思いました」
その夜、恵子さんは食卓に通帳を置きました。和夫さんは通帳を見るなり顔色を変えました。
「どこで見つけた」
最初の言葉は説明ではありませんでした。恵子さんの胸に嫌な予感が広がりました。
毎月消える4万円
それから夫婦の空気は一変しました。
「何に使ったの?」
恵子さんが聞いても、和夫さんは答えません。
「お前に関係ないことだろ」
会話はそこで終わります。恵子さんはますます不安になりました。最近は高齢者を狙った投資詐欺や特殊詐欺のニュースが後を絶ちません。退職金を失うケースも珍しくない時代です。もしかしたら騙されているのではないか。そんな考えも頭をよぎりました。
一方で、家計への影響も無視できませんでした。夫婦の生活費は月18万円前後です。食費や光熱費はここ数年で2割ほど増えた実感があります。毎月の生活費は年金で十分とはいえ、それが未来永劫とは限りません。
「最近はインフレが本当に怖いですよね。どこまで物価が上がるのか、見当がつかない」
こうした物価上昇への不安は多くの人が抱えています。金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)2025年』によると、老後の生活を心配している世帯のうち、「生活の見通しが立たないほど物価が上昇することがあり得る」ことを理由に挙げた割合は全体の33.5%(60代では33.3%)に上ります。
そのなかで毎月4万円が消えていたのです。年間48万円。10年なら480万円――。
「私たちの老後資金が減り続けている」
そう考えると眠れなくなりました。しかし本当に苦しかったのは金額ではありません。40年以上連れ添った夫が、何かを隠しているという事実でした。
「結婚して40年。ずっと一緒にいたのに、他人のようでした」
恵子さんはそう振り返ります。