(※写真はイメージです/PIXTA)
口を割らなかった夫が、ついに告白…差し出した「封筒の中身」
転機が訪れたのは、それから3ヵ月後。和夫さんが肺炎で入院したのです。幸い大事には至りませんでしたが、退院後、和夫さんが突然言いました。
「もう話す」
そう言って持ち出したのは、茶色い封筒でした。中には何十枚もの振込明細が入っていました。送り先の名義を見た恵子さんは首をかしげました。送り先は夫の姉・久美子さん(76歳・仮名)。
「お義姉さんに送っていたの?」
和夫さんは静かにうなずきました。しかし話はそこで終わりませんでした。
「正確には、姉じゃない」
恵子さんは意味がわかりませんでした。和夫さんはしばらく黙り込んだあと、重い口を開きます。
「甥の健一だよ」
振込先は姉名義の口座でした。実際に生活費として渡っていたのは、姉と同居する甥だというのです。甥の健一さん(54歳・仮名)は、20年以上ほとんど働いていませんでした。若い頃に就職した会社を退職したあと、非正規雇用を転々とし、やがて仕事から離れました。現在は高齢の母親である久美子さんの年金に頼る生活を続けているといいます。
「最初は数万円貸してほしいって話だった」
「でも、一度助けたら終わらなかった」
数年前、姉から連絡がありました。家賃や光熱費の支払いが厳しいという相談でした。年金は月8万円ほど。そこから50代の息子との生活を支えるのは限界だったそうです。和夫さんは毎月4万円を送るようになりました。
気づけば5年以上が経過していました。総額は240万円を超えていました。
「見捨てることができなかった。こっちの家族のことだと思って、言えなかった」
築50年を超える実家。老朽化した家屋。病気を抱える76歳の姉。そして、社会との接点をほとんど失った54歳の甥。いわゆる「8050問題」が、すでに現実として存在していたのです。
内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』によると、40〜69歳のひきこもり状態にある人の主な収入源は「年金」が56.8%と最多。また、その状態になった理由として男女ともに「退職したこと」が多く挙げられました。親の年金に依存する中高年のひきこもりは、どの家庭にも起こり得る身近なリスクです。
果たして、久美子さんが亡くなったらどうなるのか。甥は働くのか。生活保護を受けるのか。それとも夫・和夫さんが支え続けるのか――和夫さんが送っていた毎月4万円は、終わりが見えないお金でもありました。